コラム

「外国人が日本のトイレを絶賛」と「アフガン情勢」、大事なニュースはどっちだ

2021年09月16日(木)18時09分
石野シャハラン
ニュース

IMAGENAVI/GETTY IMAGES

<海外報道は本当に「自分に関係ない」ニュースなのか。強まるメディアと国民の内向き志向は、国を滅ぼしかねない>

まだネットやスマホが現在のように普及していなかった頃のこと。私はプリペイドカードを購入しては、日本からイランにいる母やノルウェーに住む従姉妹(いとこ)などに電話していた。頻繁に話題に上ったのはそのとき世界で起こっている出来事だ。だが私はいつも「そのニュースは知らない、日本のメディアでは流れていない」と言って、あきれられていた。私だけが別世界に住んでいるようだった。

その頃に比べて今は良い時代になった。無料通話アプリにはニュース欄があるし、グループを作って世界中の情報を交換することもできる。英語はもちろんのこと、私の母国語であるペルシャ語でもニュースを得ることができる。だからもう以前のように母親や親戚に「そのニュースは知らない」と言わなくて済むようになった。

しかし、日本のメディアで流れる海外のニュースは古いと感じることが多い。大抵は既に数日前にペルシャ語で流れたニュースである。また日本のニュースは遅いだけでなく、海外情勢が矮小化されているようにも感じる。アフガニスタン情勢について、多くの国のニュース番組はほとんどの時間を割いて報道しているというのに、日本のテレビメディアではまるで扱いが異なる。

新型コロナウイルスの感染状況がトップニュースになるのは仕方ない。それでも、CNNのアフガニスタンの現地報道から日本のチャンネルに替えると、ペットのかわいい動画や、街角の交通事故の映像(大抵中国なのはどうしてだろう)があふれていて、あまりの落差に啞然とする。日本は世界とは切り離されたパラレルワールドに存在しているかのようだ。

メディアには日本礼賛の情報ばかり

アフガニスタンで活動していた中村哲医師が亡くなったときは、もっと時間を割いて報道していたと記憶している。今回は多くのアフガニスタン人の日本大使館職員らが同国に取り残されているというのに、命の重さが異なるのかと思うくらい、扱いは小さい。情報を集めて分析し報道するより、当たり障りのない形骸化したニュースに逃げていると言わざるを得ない。

逆にメディアが扱うことが増えたのは、日本がいかに海外で称賛されているか、という話題だ。日本の100円ショップが素晴らしい、トイレが素晴らしい、和食が大ウケだ、など、皆さんも日常的に見ているだろう。オリンピック・パラリンピックで来日した選手や報道関係者が、選手村やコンビニの食事を絶賛している、という記事がその最新版だ。果たして、このような話を真に受ける日本人がいるのか、私には大いに疑問だ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story