コラム

日本は韓国のコロナ対策をまねるべきなのか?

2020年04月24日(金)17時40分
李 娜兀(リ・ナオル)

日韓のやり方にはそれぞれの歴史的経緯や社会的背景がある AFLO

<独自の販売システムによるマスク不足の解消や大規模なPCR検査によって感染を収束に導いた韓国のコロナ対策を評価する報道は増えたが......>

4月1日に安倍晋三首相が日本の全世帯にマスクを2枚配布すると発表したニュースは、韓国でも報じられた。テレビに映る安倍首相のマスク姿を見てびっくりした韓国の母から、早速「首相もあんなマスクしか手に入らないの? マスク送ろうか」と電話がかかってきたほどだ。

日本に住んでいる多くの人々と同様、わが家もマスクを手に入れるためには結構苦労をした。2月下旬、午後出勤のシフトだった夫が自宅近所の薬局を回り、マスクが来そうな店の前に1時間半並んでやっと1箱を手に入れた。一緒に並んでいた年配の男性には「俺みたいに退職した人間は、こうやって待てる。あんたも仕事をしてないのかい?」と言われたそうだ。確かに東京に住んでいる友人は「朝行けば買えるのは分かるけど、仕事があるから並べない」と、不満を漏らしていた。

マスク不足は韓国も同様だったが、3月初めから「マスク購買5部制」というシステムを導入した。出生年によって市民を5つのグループに分け、それぞれ週1回2枚ずつは確実にマスクが買えるという方法だ。また、地域によっては市や区から毎週1人1~2枚のマスクが配られる。

それだけではなく、これは台湾で先行して始まった方式のようだが、スマホのアプリで薬局のマスク在庫量や販売時間などが確認できるようにもなった。こうした対策によってマスクが不足するという不安感が薄れ、買いだめする人もいなくなった。マスク5部制実施から4週間たった首都ソウル近郊の京畿道のデータを見ると、この仕組みを使ってマスクを購入しているのは2人に1人にすぎない。それだけマスクが普通に買えるようになっている、ということだ。

といっても、私はここで「韓国方式」が良いとか、日本も取り入れるべきだなどと言いたいわけではない。マスク購買5部制は、住民登録証によって本人確認する仕組みだ。韓国の住民登録証とその番号は、銀行口座やクレジットカードなどあらゆるものとひも付けられている。全国民・住民に公平にマスクを分配する仕組みは、ある意味で国家が国民を番号で管理するシステムが成立し、市民にも受け入れられているからこそ成り立つとも言える。マイナンバーの導入にも国民から反発の声が根強く、マイナンバーカードの普及率が今も十数%という日本向きではないと思う。

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