コラム

あなたは、鈴木花純を聴いたことがあるか? 2017年最も注目する入魂のアイドル

2017年01月19日(木)15時00分

歌うために10キロの体重増もいとわない

 鈴木花純は、しばしば歌に対する思いをライブなどで語ることがある。たとえば次の言葉は、彼女のtwitterでのものだ。


 永遠を唄うこと。ここに鈴木花純のアイドルとしての特異性が集約されている。日本のアイドルの多くは、「物語消費」の枠組みで機能している。物語消費とは、メイスン大学のタイラー・コーエン教授の用語だ。人々は何かを消費するときに、その消費対象に「物語」を託し、そこに感情移入の特異点をつくることでより消費行為に没入する。これをアイドルに適用したのが、筆者の視点だった。

 多くの日本のアイドルは独自の「物語」を織なし、それによってファンとの絆をより強固なものにして消費の仕組みを構築する。鈴木花純の「物語」の核心は、ほかのアイドルが一瞬の刹那の中で生きているのに対して、あくまでも永遠にこだわる。自分がこの世を去ったあともその楽曲が永遠に唄い続けられる。このひとつの夢がうたかたとは思えないほど、鈴木花純の熱唱には時間を超えるものを感じるときがある。それはまだ完成の域ではない。だが、見事なほどその歌声は鍛えられたものだ。特に低音部の表現が絶妙である。地下アイドルの多くの現場が決して音響環境がいいとはいえない。そのため鈴木の繊細な表現をうまく音として拾えないライブ会場もある。その点は、遠藤プロデューサーは意識的で、ライブハウスの選択もさまざまな制約の中でベストを目指している。

 鈴木花純の自己管理はさらに徹底している。一時期、風邪を引き金にして声がでなくなり、ライブなどをキャンセルしたことがあった。彼女の何度もあった試練のこれもひとつのエピソードである。復帰のライブは、彼女の涙で始まり涙で終わった。それからは常に体の一部に小型の「そうち」(鈴木談)をつけている。これはウィルスを除去する薬剤が噴出する装置らしい。常にその衣装につけている。

 さらに本来は痩せているのを心配されるほどの体つきなのだが、風邪を引いたのはウェイト不足ではないか、と鈴木はなんと今年のワンマンライブまでに10キロ体重を増やした。アイドルにとって体重を増やすことは、その容姿の面からも決して得策ではないだろう。だが、なによりも唄うことがすべてなのである。まるで、オスカー賞を受賞した俳優のロバート・デニーロがボクサーを演じるために体重増をしたエピソードを思い出させる。

 鈴木はまさにファイターでもある。そういえば、彼女はしばしばライブ中に、ふっと息をはき、「よし」と小さく気合いをいれることがある。それはまさに格闘技に挑む選手のようでもある。ただし彼女は冒頭にも書いたが、10キロ増えてもきゃしゃであり、また沖縄にライブにいけば、ファンがあまり求めてもいない(?)のに、自分からぱーっと水着になり撮影会に挑む、そんなアイドルとしての天真爛漫さを決して失わない。実際にライブ中のトークは、その歌の世界と対照的にどこかおかしさが漂うものだ。

 筆者が、鈴木花純と出会ったのはそんなに昔ではない。実につい最近だ。これもまたアイドル界でも屈指の声量の持ち主である、はちきんガールズの石川彩楓とのツーマンライブでである。石川もまた苦難を乗り越えてきたアイドルだ。このツーマンはいわば試練によって心のどこかで傷や孤独の影をもったふたりの少女が出会い、たがいの中に自らをみいだした、そのことが観客全員にわかった稀有なライブであった。筆者は不覚にも、ライブの最後に友情をたしかめるように抱き合うふたりの姿をみて涙した。ここには人のこころを救うものがある。
 テレジアの鈴木花純。その存在を世界に伝えたい。

鈴木花純twitter
テレジア公式twitter
動画リンク

プロフィール

田中秀臣

上武大学ビジネス情報学部教授、経済学者。
1961年生まれ。早稲田大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『AKB48の経済学』(朝日新聞出版社)『デフレ不況 日本銀行の大罪』(同)など多数。近著に『ご当地アイドルの経済学』(イースト新書)。

今、あなたにオススメ

キーワード

ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story