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台湾「統一」を果たしたい習近平がトランプの対キューバ戦略を真似る日

TRUMP’S BLUEPRINT FOR XI

2026年3月18日(水)06時00分
ブラマ・チェラニ (インド政策研究センター教授)
中国軍艦艇による軍事演習

習は台湾統一で強行策を使わない?(昨年11月の中国軍艦艇による軍事演習) YouTube

昨年ホワイトハウスに復帰して以来、ドナルド・トランプ米大統領はカリブ海や東太平洋から遠くアフリカや中東にまで軍隊を送り、「麻薬運搬船」だの「テロ組織」だのを攻撃してきた。今年初めには奇襲攻撃でベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(当時)を拉致し、今はイスラエルと組んでイランを猛攻撃している。その一方、キューバには経済的な締め付けを強化し、同国の「友好的買収」をもくろんでいる。

もちろん国際法を無視した行為だが、その様子を注視しているのが中国だ。なぜならトランプの対キューバ戦略は、台湾「統一」という「歴史的使命」を果たしたい習近平(シー・チンピン)国家主席が簡単に借用できそうなものだからだ。

キューバは長年、ベネズエラとメキシコの原油に依存してきた。トランプは石油の搬入を完全に阻止することで、この脆弱性を突いた。結果、国民の多くが電気を使えず、水道も使えない。トラックも動かせないから食料を運べず、飢餓が拡大している。

そうやって国民を苦しめることで、トランプはキューバ政府に圧力をかけている。政権崩壊の日は近いと、うそぶいてもいる。

この手は台湾に対しても使える。中国軍が海峡を渡って台湾に本気で攻め込めば、アメリカや日本の介入を招く恐れがある。だが台湾の周辺海域で海上検疫や税関検査を実施すると宣言すれば、「安全検査」や「密輸取り締まり」の名目で中国海警局の監視艇が台湾行きの燃料タンカーを停止させることも可能になる。

台湾はエネルギー資源(主に液化天然ガス、LNG)のほぼ全量を輸入に依存し、備蓄はわずか2週間分しかない。LNGタンカーが沖合で何隻か入港待機を強いられるだけでも、数週間で連鎖的にさまざまな物資が足りなくなる。キューバ同様に停電が起き、水道が止まり、医療体制が機能不全に陥り、世界のデジタル経済を支える半導体などの製造部門も停止に追い込まれるだろう。

台湾の場合、中国の狙いは即時降伏ではなく、じわじわと兵糧攻めを行うことにある。中国にとっては、この「じわじわ」というのが肝心だ。1回でも重大な軍事行動を起こせば他国の軍事介入を招くだろうが、「日常的」な船舶検査を徐々に強化していくだけなら、周辺国もなかなか軍隊を動かせない。それでもエネルギーの輸入や物資の供給が滞れば、経済的・社会的な苦痛は徐々に大きくなる。

そして中国は、自らの仕掛けた経済的・人道的危機が深刻化するのを待って行動を起こせばいい。名目は「台湾の安定化」でも「島民救済」でもよく、トランプの言う「友好的買収」でもいい(いずれにせよ乱暴な恐喝に等しい行為だが)。

いわゆる海上封鎖は国際法で戦争行為と見なされるが、検疫や検査体制の導入なら軍事行動ではなく警察権の行使だと言い逃れることもできる。

さて、その場合に日本やアメリカは、国防予算が世界第2位の核保有国と戦争するリスクを冒してまで台湾を守ろうとするだろうか。答えはおそらくノーだ。

超大国は互いに、相手の振る舞いを注意深く見守っている。どこぞの超大国が試して成功した手があれば、別の超大国も(すぐにか、時機を見てかは別として)その手を使う。つまり、いまキューバで起きているのは1回限りの悲劇ではない。それは別な悲劇のリハーサルであり、テストでもある。トランプがキューバ(人口約1100万)の首を絞めても世界が見て見ぬふりを決め込むようなら、台湾(人口約2300万)に同じ手を使うのを習がためらう理由は、まず見当たらない。

©Project Syndicate

◇ ◇ ◇

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【note限定公開記事】トランプの手法を習近平が真似る日


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