イラン現体制が倒れた後に平和は訪れるのか? 民主主義の経験ゼロでの民主化はイバラの道?
A TUMULTUOUS PAST
アメリカを後ろ盾にしたパーレピ国王は宗教勢力の反発を招き失脚・亡命した(1979年1月) AP/AFLO
<イランにはペルシャ人だけでなく、分離志向を持つ民族もたくさんいる>
今こそイラン国民は結束して、邪悪な体制から自由になるために立ち上がるべきだ──。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、イランの核開発計画をつぶすという目標を超えて、イランの人々に蜂起を呼びかけたのは2025年6月のこと。そして2月28日、ドナルド・トランプ米大統領が、イランに対する軍事行動を実行した。
もしそれが現実になっても、アメリカが軍事的に中東の国の体制転換を図るのは、これが初めてではない。03年にイラクに侵攻してサダム・フセインの独裁体制を倒し、11年にはNATOの対リビア軍事介入を支援して、独裁者ムアマル・カダフィを失脚させた。しかしどちらの国も、そして中東全体も、長期にわたり不安定化した。
もしイランの現体制が転覆されたら、同じような事態になるのか。
2500年続く文明国家
イランは多元的な社会で、民族や宗教などさまざまなグループがせめぎ合い、権力闘争を繰り広げてきた複雑な歴史を持つ。民主主義を実現するのは難しいだろう。
現体制、すなわち宗教(イスラム教シーア派)指導者が統治を担う神権政治が確立されたのは、1978〜79年のイラン革命の結果だ。
それまでイランは、2500年にわたり君主制の国だった。最後の国王(シャー)となったモハマド・レザ・パーレビは、41年に即位したが、石油国有化など急進的な民族主義政策を進めたモハマド・モサデグ首相と対立して国外退避。53年にCIA主導のクーデターの結果、王位に復帰してイランの世俗化・近代化を進めたが、欧米の傀儡というイメージが生涯ついて回った。
イラン革命を当初牽引したのは、パーレビの開発独裁に反発した民主化勢力だった。だが、自由主義者、共産主義者、宗教勢力などが混在していて、統一的な指導者はいなかった。そんな中、ルホラ・ホメイニ率いるシーア派宗教指導者層が最も組織的にまとまっていて、革命の中核を担うようになった。

もともとホメイニはパーレビの近代化政策を批判したため、60年代に国外追放されたが、反体制的な呼びかけを続けた。そして79年にアメリカに見捨てられたパーレビが国外に亡命すると、ホメイニはイランに帰国して熱狂的な歓迎を受けた。
最高指導者ホメイニを中心とする宗教指導者は、王政を廃止して共和制を導入するだけでなく、独特の宗教観に基づく統治を導入した。また、アメリカを「大悪魔」と呼び、イスラエルをパレスチナの地の強奪者と非難して、中東の地域秩序に大きな影響を与えるアメリカに挑戦状をたたきつけた。そして、「東側でも西側でもない」イスラムに基づく外交政策を取ると宣言し、中東全域にイスラム革命を広げようとした。
89年にホメイニが死去すると、後継者のアリ・ハメネイは、戦闘的姿勢と改革姿勢を織り交ぜた統治を展開して、国内外の多くの難局を乗り越えた。経済的自立と防衛能力の強化を図るとともに、アメリカ陣営に対抗するために東側(ロシアと中国)に接近した。その一方で、現体制の存続に必要な場合は、譲歩に応じる柔軟性を示してきた。
ハメネイは憲法上の巨大な権力と、宗教上の大きな権威を持ち、その権力執行機関(イラン革命防衛隊やその民兵組織であるバシジ、そしてシーア派宗教ネットワークなど)を拡大・強化してきた。その基礎をなすのは、シーア派の殉教の概念と、何世紀にもわたり主権国家として存続してきたイランへの忠誠心だ。
ハメネイとその権力執行機関、そして選挙で選ばれた大統領や国会議員は皆、現体制が崩壊すれば自分たちも過去の指導者らと同じ運命をたどることをよく理解してきた。だから彼らが簡単に白旗を掲げるとは考えにくい。それでも国内の民衆蜂起と外国からの圧力が重なって現体制が崩壊する可能性はある。そうなった場合、誰がイランを統治するのか。
現体制に不満を抱く国民は多いが、国内を結束させるような指導者がいて、きちんと組織化されている反体制派は存在しない。今は亡きパーレビ国王の長男レザ・パーレビ元皇太子は、一定の支持を集めており、2025年6月にX(旧ツイッター)でイランの人々に全面蜂起を呼びかけた。
「イスラム共和国が終焉すれば、イランという国に対する46年に及ぶ戦争も終わる。現体制の弾圧機構は崩壊しつつある。いま必要なのは、全国的な蜂起だけだ」
レザは父の廃位以降、アメリカで暮らしてきた。従って米政府やイスラエル政府、とりわけネタニヤフとの関係が深く、それがマイナスに働く可能性は高い。無理にレザを権力の座に就ければ(アメリカの支援があれば可能だろう)、父親と同じように政治的正統性が欠如していると国民に見なされる恐れがある。
民主主義の経験はゼロに近い

イランは伝統的に、民主主義が長く続いたことがない。20世紀前半に少しばかり、自由主義が支配的だった時期があったが、それを持続させる試みはことごとく失敗に終わり、権威主義体制の回帰を招いてきた。また、豊富なエネルギー資源と地理的に戦略的な位置ゆえに、いつの時代も外国の介入を受けてきた。
さらにイランは多様な民族や宗教が入り交じっているため、国内が分裂しやすいという側面もある。人口の半分以上はシーア派のペルシャ人だが、クルド人やアザリ人、バローチ人、アラブ人といったスンニ派少数民族も存在し、みな分離志向を持つ。このためイランは歴史的に、地方分権よりも中央集権によって国としてのまとまりを維持してきた。
もし、何らかの理由で現体制が崩壊した場合、円滑な権力移譲や、統一国家の枠組みを維持しつつ民主化が進むと期待するのは間違いだ。
イランの人々には高い教養があり、創造的で、豊かな文明を築いてきた歴史があり、利己的な外国の介入がなければ、自らの運命を自分たちで切り開く十分な力がある。問題は、外国の介入がなかった時代など、ほとんどないことだ。
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Amin Saikal, Emeritus Professor of Middle Eastern and Central Asian Studies, Australian National University; and Vice Chancellor's Strategic Fellow, Victoria University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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