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環境問題

砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧文化の救世主か、破壊神か

Tackling Dust Storms

2026年1月5日(月)16時10分
トーマス・ホワイト(英キングズ・カレッジ・ロンドン講師)、アンドレアス・バース(同大学教授)、程漢(チョン・ハン、独マックス・プランク科学史研究所上級研究員)
23年3月の砂嵐

23年3月の砂嵐は特に深刻な大気汚染をもたらした(北京) AP/AFLO

<国土の8割近くが砂漠のモンゴルでCOP17が開催される。中国は「10億本の植樹支援」を申し出ているが>

北京を含む中国北部には、砂嵐の被害が絶えない。中国の科学者や政府関係者は隣国モンゴルが発生源だと考えるようになり、「モンゴルの環境問題は中国の問題」という認識が広まっている。

【動画】雄大で美しいモンゴルのゴビ砂漠

こうしたなかで2026年8月には、国連の「砂漠化対処条約第17回締約国会議」がモンゴルの首都ウランバートルで開催される。国連によればモンゴルは砂漠化の最も深刻な影響を受けている国の1つで、国土の約77%が既に砂漠化しているという。


砂嵐は、降雨量の少ない地域の乾燥した表土が季節風にさらされることで発生する。23年春には例年を上回る規模の砂嵐が中国を襲い、空がオレンジ色に染まったが、こうした砂塵の増加は気候変動や砂漠化と関係があると指摘されている。

中国は近年、国内の砂漠化を防ぐためにさまざまな対策を取っている。その代表例が、1978年に始動した「緑の長城」プロジェクトだ。大量の木を植えることで砂の移動を押しとどめ、砂漠や砂丘の拡大を抑え込むことを目的としている。

中国はモンゴルとの協力も進めており、23年にはウランバートルに中国モンゴル砂漠化対策協力センターが設立された。これに伴って中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、モンゴルが30年までに10億本の植樹を目指す計画への支援を約束した。

死者、行方不明者を出したモンゴルの砂嵐のニュース(2021年)

こうした協力は中国にとって、砂漠化対策に関する自国のノウハウを国外にアピールする好機でもある。

中国は植樹をはじめとする従来の技術に加えて、砂丘そのものを固定する技術や防砂フェンスの開発も行ってきた。このところ設置が進んでいる太陽光パネル群も、その防風効果によって砂丘の移動を防ぎ、砂漠化の進行を抑制することが期待されている。

遊牧の伝統が邪魔をする

さらに広い視点で見た場合の砂漠化対策として、中国は牧畜民の生活も規制している。

中国当局は、過剰な数の家畜を抱え込むことが不適切な土地管理につながっていると考え、牧畜民を草地から移住させる「生態移民」政策を取ってきた。草地にとどまる人々についても放牧を禁止したり、飼育する家畜の数を厳しく制限したりしている。

これらの政策は草地利用権の私有化をベースとしており、私有化に伴い区画を明確化するためのフェンスが設置された。そのため、牧畜民の移動性が大きく損なわれている。研究者の中には、中国の砂漠化が進行した主な原因は草地利用権の私有化にあると考える人もいる。

一方のモンゴルは、遊牧の伝統を誇りとしている。中国のように放牧地にフェンスを設置したり家畜の削減計画を実施すれば、モンゴルでは大きな反発を招くだろう。現在のところ中国とモンゴルの協力は、点在する小規模な「実証区」や科学的な交流、モンゴルの植樹計画への支援にとどまっている。

26年は国連が定めた「放牧地と牧畜家の国際年」でもある。今や生物多様性の保全や草地の砂漠化防止において、牧畜民が果たし得る積極的な役割が国際的に評価されつつある。中国の環境外交は、この新たな認識にどう向き合うのだろうか?

The Conversation

Thomas White, Lecturer in China and Sustainable Development, King's College London; Andreas Baas, Professor of Aeolian Geomorphology, King's College London, and Han Cheng, Senior Research Scholar, Max Planck Institute for the History of Science

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


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