最新記事
イラク

【独占インタビュー】ムハンマド・スダニ首相──文明発祥の地イラクを再び偉大に

MAKING IRAQ GREAT AGAIN

2025年12月8日(月)17時40分
トム・オコナー(本誌米国版外交担当副編集長)
選挙を経た国会で第1勢力を率いるスダニは歴史と文化を礎とするイラクの力を信じている SHAWN CARRIE

選挙を経た国会で第1勢力を率いるスダニは歴史と文化を礎とするイラクの力を信じている SHAWN CARRIE

<長く激しかった混乱の時代を乗り越えて、「イラク・ファースト」を掲げるスダニ首相は、貿易・投資・イノベーションの世界的ハブを目指す>


▼目次
トランプと良好な関係を維持
脱・石油依存の経済モデル
武装勢力に政治参加を促す

米軍主導の侵攻が独裁者サダム・フセインを打倒した後の初の選挙から20年。文明発祥の地でありながら、長年の紛争に翻弄され続けてきたイラクは、再び重要な選挙を迎えた。

11月11日に行われた国会選挙は、イラク史において大きな節目となるものだ。この国はようやく安定を手にしつつあるようだが、今回の選挙はこの先の行方を左右しかねない。

国を動かしてきたのは、ムハンマド・スダニ首相。彼の率いる政党連合「復興開発連合」が第1勢力となった。スダニは2期目を目指すが、どの勢力も単独では過半数に届かず、次期政権樹立に向けた勢力間の協議が焦点となっている。

スダニは2022年、前年の国会選挙後に政治的対立で組閣ができず1年近く続いた混乱の中で、首相の座に押し上げられた。当初は「つなぎ役」とみられたが、その後もイラクの舵取り役を果たしてきた。いまスダニは人材や天然資源、文化遺産が十分に活用されていないイラクの潜在力を引き出し、世界的な貿易、投資、イノベーションの拠点に転換する野心的な青写真を描いている。

「イラクは古い歴史を持つ偉大な国だ。7000年前にさかのぼる文明を礎にしている」と、スダニは語る。今も厳重警備が続く首都バグダッドのグリーンゾーン(旧米軍管理区域)にある共和国宮殿の執務室で、彼は部屋に飾られた古代のハンムラビ法典のレリーフを指さし、「全ての人類の偉業だ」と強調した。

「イラク人の遺伝子にこれが刻まれ、世代から世代へ受け継がれている」と、スダニは語る。「これこそ、イラクの民が多くの試練に耐え抜くことができた理由だ。歴史と遺産の力のたまものだ」

スダニはこれまで長く続いた「厳しい状況、政治的激動、不安定な環境」を振り返りつつ、イラク初の憲法の制定から100周年を迎えたことを踏まえて言う。「私たちは次の100年に備えなければならない」

スダニの率いる復興開発連合は、選挙戦で多くのスローガンを掲げた。連合のシンボルマークはクレーン。バグダッドでは、ビルや道路、橋が次々と建設され、クレーンが林立している。目下の建設ラッシュは、外国投資が流入している証拠だ。

スローガンの中でも特に強い反響を得ているのが「イラク・ファースト」。スダニにとって単なるうたい文句ではない。彼の考えでは、長きにわたる混乱(不安定な王政時代、イランおよびアメリカとの破滅的な戦争、フセイン政権下での混乱、そしてその後の宗教暴動)をくぐり抜けてきたイラクの人々に対し、ようやく果たされるべき誓いなのだ。

かつてイスラムの黄金期には「世界の中心」とも言えたバグダッドだが、21世紀は不安と危機にさいなまれる日々が続いてきた。05年に始まった民主化の歩みも、目立った進展はない。スダニはこの状況を変えたいと願う。そのため過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討を土台に、イラクをさらなる対立から遠ざけ、国家の再生へ向かわせる決意だ。

「どの国の指導者でも、国と国民の利益を第一に置くことは極めて重要だ」と、スダニは言う。「イラクの人々は第一に扱われるべきであり、イラクという国は安全、安定、開発、公共サービス、生活水準、そして若者に未来の機会を約束する場として第一であるべきだ」

自身のアプローチがドナルド・トランプ米大統領の「アメリカ・ファースト」と重なることを、スダニは認める。トランプの政策は国内外で分断を招いたが、スダニにとっては「自国民を最優先に考えるという点は共通している」という。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=ナスダック一時1週間ぶり安値、

ワールド

プーチン氏、マドゥロ政権に支持表明 経済協力も協議

ワールド

米印首脳が電話会談、二国間関係や国際情勢など協議

ビジネス

米9月貿易赤字10.9%減、予想外の縮小 20年6
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中