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エジプト

底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由──両国を結ぶ、才と優しさの物語は新章へ

2025年10月8日(水)15時00分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)

「周りの現実を変えたいのなら、まず自分を変えることから始めるべきである」

これは3000年以上も前に、古代エジプトの優れた哲学者アーニ師が自分の息子に宛てた「手紙」の中で残した言葉である。私はこれを何度も読み、今のエジプト経済の混沌とした状況を考えにはいられなかった。今こそ私たちは、アーニ師の教えから学ぶべきではないだろうか。

エジプト革命はもうすぐ15周年を迎える。今やエジプト人は、体制を変えるには、大統領や旧体制を排除するだけで十分でないことを理解した。新生エジプトが誕生するには、新しい「エジプト人」の誕生が必要不可欠だと悟ったのではないだろうか。大統領や旧体制を排除する「最初の革命」は終わった。そして「次の革命」は、国民が自分自身と向き合っていくことにほかならない。私も一人のエジプト人として賢人アーニ師の言葉をもう一度反芻し、「次の革命」へ向かいたい。

ナイルの流れが静かに未来を映すころ、日本とエジプトの絆は新たな章を開こうとしている。日本は、エジプトの地に「学び」という種をまき、希望の芽を育てている。日本式教育の導入や教師の研修、若き研修生たちの往来は、単なる技術移転ではなく、心の在り方を交わし合う文化の旅だ。それは教育を通じて社会を変革し、人と人との間に信頼の橋を築こうとする物語でもある。

エジプトの子供たちは、教室の中で「学び」と「まごころ」が出会う瞬間を目にしている。礼儀、協働、思いやり──日本が長く育んできた知恵が、ナイルの風を受けて新たな形に芽吹いていく。

今、エジプトは過去の栄光を懐かしむのではなく、それを礎として未来を紡ごうとしている。日本の知恵を鏡として映し出しながら、エジプト人自身の持つしなやかな柔軟さと、互いを思いやる利他の精神を呼び覚ましているのだ。その試みは、古代から続く文明の息吹と、東の島国から届く静かな光が交わる瞬間である。

その光はやがて、カイロの教室にも、ナイル沿いの小さな村にも届くだろう。 そして、新しいエジプトは、知の翼を広げながら再び空へと羽ばたくのだ。

almomen-shot.jpg【執筆者】アルモーメン・アブドーラ
エジプト・カイロ生まれ。東海大学国際学部教授。日本研究家。2001年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。02~03年に「NHK アラビア語ラジオ講座」にアシスタント講師として、03~08年に「NHKテレビでアラビア語」に講師としてレギュラー出演していた。現在はNHK・BS放送アルジャジーラニュースの放送通訳のほか、天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバス議長などの通訳を務める。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。近著に「地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人」 (小学館)、「日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究: 比喩的思考と意味理解を中心に」(国書刊行会)などがある。

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