習近平はなぜ急ぐ? 軍事・産業・人口が示す中国の「タイムリミット」
Xi Jinping is in a race against time to secure his legacy in China

大々的に行われた「抗日戦勝80周年」の式典には習(中央)と並んでプーチンと金正恩の姿も XINHUA/AFLO
<中国が築いた優位性は、アメリカの反攻で揺らぎつつある。歴史に名を刻むべく台湾統一を急ぐ習近平だが――>
中国の首都・北京で9月3日に行われた「抗日戦勝80周年」軍事パレードは、世界的な話題になった。だがこの式典は、単なる壮大なショーではない。
歴史に名前を残すことを目指す中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が、残り時間は少ないと自覚していることを告げる出来事だった。
72歳の習にとって、台湾統一は政策目的であるだけではない。毛沢東を超えて、近代中国史上、最も優れた指導者という名声を確立するために成し遂げるべき最重要課題だ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記をはじめとする外国首脳が出席し、メディアが注目するなかで権力を誇示した軍事パレードのタイミングと演出は、切迫感を浮き彫りにしている。
習の使命は毛が取りかかった任務をやり遂げ、「祖国完全統一」を実現することだ。台湾を併合して、20世紀前半から続く国共内戦を公式に終わらせた英雄になろうとしている。
だが、時機を待つだけでは危険だ。中国共産党内では忠誠心は取引の材料で、政敵が常に弱みを狙っている。
いい例が、薄煕来(ボー・シーライ)をめぐる事件だ。将来を期待される政治家で、かつて習と親密だった薄は2012年、不正蓄財スキャンダルなどによって劇的に転落した。
余波を受けてもおかしくなかった習は逆に、薄の失墜を利用してトップへの道のりを固めた。
薄の事件は教訓であり続けている。権力は決して揺らいではならず、勢いを止めてはならない――。
習は既に政敵のほぼ全てを排除するか、脇へ追いやり、国家主席として異例の3期目に入っている。それでも習の統治には、運はたちまち変化しかねないと知っている者ならではの切迫感が付きまとう。
中国国外では、戦略的均衡も変化を迎えている。中国は長らく、極超音速兵器や対艦ミサイル、工業生産で他国に先んじてきた。
その防空・新型ミサイル防衛システムは、アメリカの空母打撃群や北東アジア地域での複雑な連合作戦にとって脅威だ。
だが、差は近いうちに縮まるかもしれない。米国防総省の今年度の極超音速ミサイル開発予算は69億ドルに上り、米民間企業は再利用可能なミサイル発射試験台やミサイル推進システムの開発を加速している。
極超音速兵器である通常型即時攻撃(CPS)システムを開発する米海軍は、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦を改修してCPS発射台を取り付けた。同軍にとって初の海上極超音速兵器発射プラットフォームだ。こうした前進はいずれも、中国の軍事的優位を低下させている。
日米韓が追い上げるなかで
工業分野での米中競争も同様だ。中国は現在、世界の商業造船市場を支配している。デュアルユース(軍民両用)基盤の造船業は海軍拡張の支えでもある。
最近の分析によれば、造船世界最大手である中国船舶集団の昨年の造船竣工量(トン数)は、第2次大戦後の米造船業全体の総量を上回った。台湾有事で優位に立つ上でも、頼みの綱となる産業基盤だ。
だが、アメリカやその同盟国は造船分野への投資を始めている。ドナルド・トランプ米大統領はホワイトハウス内に造船局を設立すると表明し、4月には米造船業復活と海運業での中国の支配力低下を目的とする大統領令に署名した。
国防総省は来年度の海軍船舶建造予算として、470億ドルを求めている。
造船大国の日本と韓国も、北東アジアにおける権力構造の変化を認識し、造船分野に大幅に資源を投入している。両国は先頃、訪問した米政治家らに、アメリカの造船能力強化への協力を拡大するとも約束した。
習にとってさらに差し迫った問題は、人口統計という時限爆弾だ。中国の人口は23年、前年から208万人減少し、2年連続で減少を記録した。同年の出生数は902万人で、17年当時からほぼ半減している。
労働力人口が縮小する一方、30年代半ばまでに60歳以上の高齢者層が総人口のおよそ3分の1に拡大する見込みだ。こうした傾向は経済成長を阻み、社会保障制度の負担になるだろう。
人口の行方は定まった運命ではないが、戦略的利益の確保を目指す国家指導者にとって時間的制約になる。
見過ごされがちだが、問題はもう1つある。近現代で最も効率的な政治・戦争システムは、競争原理で動く資本主義という現実だ。
アメリカには今も、奥行きのある独自の「創造的破壊力」がある。そのダイナミズムは混沌としていて分散的で、落ち着かないものであることが多い。だが、まさにそれがアメリカの戦略的強みだ。
おかげで産業を改革し、画期的テクノロジーを生み出し、中央集権型システムより素早く衝撃を吸収することができる。さまざまなことを模倣してみせる中国だが、市場牽引型のエコシステムをまねるのは簡単ではない。
こうした事情があるからこそ、習は世界に信じ込ませようとしている。中国の台頭は誰にも止められず、台湾統一は不可避だ、と。
グレーゾーン戦略(平時でも戦時でもない状態での作戦)や経済的影響力、南シナ海で少しずつ領土境界線を切り崩す「サラミ戦術」によって、戦わずに勝とうとする中国の手法がこれまでのところ有効なのは、忍耐と巧妙さを核としているからだ。
だが習が速度を上げるほど、計算違いのリスクは大きくなる。
強制的な台湾統一は、習体制の最も危険な賭けになるだろう。
つまずけば、結果は深刻だ。国外では戦略的屈辱にさらされ、国内で政治的混乱を招き、共産党の権威を支えてきた「不可避性」の神話は崩壊する。
孫子の兵法によれば、最高の勝ち方は戦わずして勝つこと。だが、それは忍耐が時機をもたらすときだけだ。時は今や、習の味方ではない。
Ian Langford, Executive Director, Security & Defence PLuS and Professor, UNSW Sydney
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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