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ジェンダー格差

家事・育児・介護は無償労働......男女間の労働時給のえげつない格差

2025年9月17日(水)11時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

時間給に換算するとどうなるか。上述のように、30代後半の既婚男性の年収中央値は526万円。1日の仕事・家事・育児・介護の平均時間は513分(8.55時間)。ざっくり時間給にすると、526万円/(8.55時間×365日)=1686円。このやり方で、広義の労働時間ベースの時間給を男女の年齢層別に計算した。<図2>は、結果をグラフにしたものだ。

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予想はしていたが、えげつない結果が出ている。女性はどの年齢層でも1000円未満だ。50代の前半では、男性が2202円に対し女性は629円。仕事時間ベースの時間給では見えない、悲惨な現実が露わになっている。

「家事や育児にもお金を払うべきだ」という考えはあるようで、女性の家事を収入に換算したら●●円といった試算も見かける。30代後半の既婚女性有業者の1日の家事・育児・介護時間は271分(4.52時間)なので、時給1200円の対価を払うとすると、年収は1200円×4.52時間×365日=198万円となる。この分を加算したら、トータルの年収は同年齢の男性にかなり近くなる。

だがこれはあまり現実的でなく、まず問題にすべきは、家事や家族ケアといった「シャドウ・ワーク」が女性に偏り過ぎていることだろう。男性の家事分担率が日本よりずっと高い欧米諸国においては、上記のような露骨な男女格差は出てこないはずだ。随所で言われていることだが、男性の家庭進出をもっと進めるべきだ。そのことが、女性の社会進出を進めるための条件となる。

「夫は仕事、妻は家事。こういう分担をした方が効率的だ、夫婦が合意で決めたのならそれでいいではないか」という意見もあるだろうが、妻にすれば夫への「経済的従属」であって、DV被害と常に背中合わせだ。娘に性暴力を働いた夫の裁判で、妻が「経済的に困窮するので無罪を望む」と意見陳述する、というような悲劇も起きやすくなる。結婚に際して、女性が男性に期待する年収のハードルも上がり、結果として未婚化・少子化も加速する。

「家族なら何でもタダでさせられる」と三世代同居を推奨するなど、育児や介護を家族に依存しようとする国のやり方も見直さなければならない。女性の無償労働の上で成り立ってきたやり方は、今後は通用しなくなる。

<資料>
総務省『社会生活基本調査』(2021年)
総務省『就業構造基本調査』(2022年)

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