最新記事
ガザ紛争

歴史的「承認」か、それとも「絵に描いた餅」か?...英仏が動いたパレスチナ「国家承認」のゆくえ

UK to recognise Palestinian statehood unless Israel agrees to ceasefire – here’s what that would mean

2025年8月4日(月)15時13分
マラク・ベンスラマ・ダブドゥーブ(ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校講師)
記者会見に応じるスターマー英首相

条件付きでパレスチナ国家を承認すると発表したスターマー(7月29日) TOBY MELVILLEーPOOLーREUTERS

<イギリスとフランスがパレスチナ国家の承認に動いた。G7および国連安保理常任理事国として初の決断は、中東政策の転換点となる可能性を秘めているが...>

イギリスのスターマー首相は7月29日、イスラエルが一定の条件を満たさなければパレスチナを国家として承認すると発表した。その条件とは、長期的かつ持続可能な和平へのコミットメント、国連による人道支援の再開許可、停戦への同意、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸を併合しないと明確にすることだ。

既にフランスのマクロン大統領は24日、パレスチナ国家を9月に正式承認すると明言していた。実際に両国が承認に踏み切れば、G7加盟国および国連安全保障理事会の常任理事国で初となる。(編集部注:カナダのカーニー首相も7月30日、9月の国連総会でパレスチナを国家承認する意向を表明した)


国家承認は単なる象徴的行為ではない。1933年のモンテビデオ条約は主権国家の基準要件を定めている。永続的な住民、明確な領域、機能する政府、国際関係に関与する能力の4点だ。

英仏の決定は、「パレスチナ国家の承認は、最終地位交渉後まで延期すべき」という欧米諸国間の従来の合意からの決別を意味する。過去20年間にわたるガザでの暴力行為と和平交渉の失敗に対し、欧州側で高まる不満の表れだ。

だが、それでパレスチナの何が変わるのか。現時点で英仏は、承認が具体的な措置を伴うかを明らかにしていない。

イスラエルへの制裁や武器輸出停止、人道支援の拡大やパレスチナの統治機構への支援についての言及はない。英仏の承認宣言は、イスラエルの主要な軍事・経済的パートナーという現在の関係を変更するものではないようだ。

パレスチナの国家承認を表明した西欧の国は英仏が初めてではない。2014年にはスウェーデン、24年にはスペインなどが承認しているが、どちらも象徴的な意味合いが強く、現地の政治・人道状況に大きな変化はなかった。

マクロンの承認宣言は別の理由でも注目を浴びた。「非武装化されたパレスチナ国家」がイスラエルと平和かつ安全に共存すると強調したからだ。

パレスチナ側は長年、民族の自決権には占領に対する自衛権も含まれると主張してきた。非武装化の提案は、安全保障の問題をほぼイスラエル側の懸念のみに限定してきた現状の固定化どころか強化だと批判する向きが多い。

一部のアナリストは、この種の承認はパレスチナ国家を名目だけの存在に矮小化するリスクがあると警告する。国境、資源、防衛に関する権限を持たない断片化された非独立の政体になりかねないということだ。領土の継続性、イスラエルの入植地拡大停止、移動の自由が保証されない限り、主権国家は絵に描いた餅に終わる可能性がある。

英仏が象徴的行為以上の成果を上げるための選択肢はある。例えばイスラエルへの武器輸出を停止したり、戦争犯罪に関する独立した国際的調査を要求したりすることだ。国際社会での影響力を生かして違法な入植地やガザ封鎖に対する責任を追及することや、パレスチナの統治機構への直接支援も考えられる。

外交的立場の変更を意味する英仏の承認表明は、国内外で議論を呼び、ガザ紛争への国際社会の関与強化を願う人々の期待を高めている。だが、意味ある政策の変更や現地の状況の変化につながるかどうかは、まだ分からない。

両国の国連での動きや貿易、安全保障、援助関連措置など、次の選択が結果を大きく左右しそうだ。

The Conversation

Malak Benslama-Dabdoub, Lecturer in law, Royal Holloway University of London

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



ニューズウィーク日本版 イラン革命防衛隊
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月24号(3月17日発売)は「イラン革命防衛隊」特集。イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


メンバーシップ無料
ニューズウィーク日本版メンバーシップ登録
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、2月は1.8%上昇 インフレ

ワールド

イスラエル外相、イランとの戦い「すでに勝利」、目標

ワールド

トランプ氏訪中延期、イラン情勢受け 習氏との会談5

ワールド

トランプ氏、NATO消極姿勢を非難 イラン作戦巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 3
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 6
    「目のやり場に困る...」グウィネス・パルトロウの「…
  • 7
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    生徒がいない間に...中学教師、教室でしていた「気持…
  • 10
    戦争反対から一変...湾岸諸国が望む「イランの脅威」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中