最新記事
生活保護

群馬県桐生市の生活保護世帯が過去10年で約半減している

2025年3月19日(水)11時45分
舞田敏彦(教育社会学者)
生活保護申請書

桐生市の生活保護世帯数の推移は全国とも群馬県とも大きく乖離している beauty-box/photoAC

<母子世帯の受給件数の減少率は著しく、申請者を委縮させる「水際作戦」という指摘も>

物価高が国民の生活を脅かすようになって久しい。1日2食、いや1食しかとれない、酷暑であってもエアコンをつけられない......。こういう悲惨な声も、ちらほら聞こえてくる。

だが国民には、健康で文化的な最低限の生活を営む「生存権」が保障されているのであって、そこまでの困窮生活を強いられているとしたら、生活保護を使うのも視野に入れるべきだ。コロナ禍以降、政府も「生活に困ったら、生活保護の利用を検討してほしい」と呼びかけている。


 

生活保護申請件数はここ数年増加しており、2024年は25万5897件。同年の生活保護開始世帯数は22万6201件(厚労省『被保護者調査』)。後者を前者で割ると88.4%で、案外、申請は通りやすいように見える。しかし、申請に至る前の段階でかなりはねつけられている可能性がある。いわゆる「水際作戦」だ。

群馬県の桐生市では、暴力団対応経験のある元刑事を窓口に座らせているという(「生活保護相談員に『暴力団対応経験者を』桐生市、県警に紹介依頼」毎日新聞、2025年2月17日)。不正受給を防ぐためとあるが、市民団体からは「生活保護申請者を委縮させる水際作戦」と指摘されている。

そういう疑いをかけられても仕方ない、と思えるような統計がある。<図1>は、2012年度から22年度までの生活保護受給世帯数の推移だ。

newsweekjp20250319020638-9aaa59ce8e7938d586e4bbd103425112a6044e87.png

全国、群馬県、および桐生市の推移を掲げている。値の水準が異なるので、2012年度を100とした指数にしているが、桐生市の特異性が一目瞭然だ。全国は微増、群馬県では増加なのに対し、桐生市は急な右下がりになっている。同市では、生活保護を受けている世帯がこの10年間でほぼ半減した。

不正受給の一掃と言えば聞こえはいいが、全国や群馬県の傾向とあまりに違い過ぎている。群馬県内の他のエリアと比べても、この減少率は異常だ。コロナ禍や物価高で、困り果てている人が増えているのは同じはずだ。「生活保護申請者を委縮させる水際作戦」で、生活困窮者に公的扶助が行き届かなくなっている可能性がある。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中