最新記事
荒川河畔の原住民⑭

突然姿を消した荒川ホームレスの男性 何が起こったのか、残された「兄弟」は...

2024年12月4日(水)19時20分
文・写真:趙海成

2人はしばらく話をして、別れるときに桂さんは斉藤さんに柔らかいスリッパを贈った。靴を履くと足が痛くなると言ったから、桂さんが自分のスリッパを斉藤さんに上げたのだ。

だがその年の初夏、斉藤さんはまた荒川河川敷にやって来た。桂さんに、こちらに戻りたいという話を持ち出したという。

今回、桂さんは遠慮なく「いいよ、家賃さえ払えば」と応じた。月に1万円で、桂さんのその小さな「応接間」を斉藤さんに使わせることにした。

兄弟のような情はなくなったが、話し相手としてこれから関係を続けることもできる。私は桂さんのこの対応に賛成する。

しかし、斉藤さんが荒川河川敷に戻ってから1週間後、とても残念なことが起きた。桂さんが急性の心筋梗塞のため、入院したのだ。

桂さんに頼るために荒川河川敷に戻ってきた斉藤さんは、突然一人ぼっちになり、寂しさと不安を感じたようだ。いっそのことどこか別の場所に引っ越そうと思ったのか、彼はまたいなくなってしまった。でも、どこに行ったとしても、桂さんのような理想的な人生のパートナーに出会うことは難しいだろう。


※ルポ第15話:わが友人、ホームレス、テントに暮らす荒川の釣り名人。奇跡が起きることを祈っている に続く


(編集協力:中川弘子)


[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スウェーデン、25年成長見通し0.9%に下方修正 

ワールド

仏極右政党ルペン氏、米国からの支援申し出を拒否=関

ビジネス

ECB緩和終了の可能性、貿易巡り金利据え置きを=ス

ビジネス

アマゾン、プライム配送サービスを年内に米地方都市に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中