最新記事
歴史

米大統領「オクトーバー・サプライズ」、どこまで結果に影響? 19世紀から続く「歴史」からひも解く

ARE OCTOBER SURPRISES OVERBLOWN?

2024年10月16日(水)18時12分
ジュリアン・ゼリザー(米プリンストン大学教授〔政治史〕)

ところがこれを受けて、ニクソン陣営の関係者が第三者を通じて秘密裏に南ベトナムに接触し、11月初旬に和平交渉がまとまる可能性をつぶそうと働きかけを行った。大統領選はニクソンが勝利した。

国民は共和党の裏工作を知らなかったものの、ジョンソンは知っていた。しかし彼は、この一件を公にしないことを選んだ。ニクソンが勝利した場合にアメリカの立場を弱体化させることになるし、裏工作を盗聴によって知ったことが露呈するのを恐れたからだ。


72年の大統領選では再選を目指すニクソン陣営が10月8日、北ベトナムが和平協定に合意したというサプライズを仕掛けた。ヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がその18日後に「和平実現は近い」と発表したが、実は既にその合意は破綻していた。

今年の米大統領選は「常態」に戻った

オクトーバー・サプライズの歴史が語られるときに必ず議論されるのは、「10月の波乱」には本当に影響力があるのかという点だ。

多くの有名な歴史的事例を振り返ると、オクトーバー・サプライズは実際に選挙結果を変えているとは言えない。72年の大統領選でニクソンが民主党の対立候補ジョージ・マクガバンに圧勝した最大の要因は、10月下旬にキッシンジャーが「ベトナム和平実現は近い」とアピールしたことではなかった。

newsweekjp20241016014941-e1b47d5ec91cd59be3f0095a2526686d162026a3.png

MAP: GOLDEN SIKORKA/SHUTTERSTOCK

しかし今年の大統領選では、オクトーバー・サプライズが選挙の行方を狂わせる可能性がある。

民主党候補が途中交代して、実質的に選挙戦が短くなるという異例の事態が起こった上に、最近の米大統領選では一握りの激戦州が結果を左右することを考えると(マップ参照)、オクトーバー・サプライズが極めて重要な一部の有権者層を動かすかもしれない。既に一部の州では期日前投票が始まっており、あらゆる出来事がリアルタイムで投票行動を変え得る。

それでも注目すべきなのは、過去数カ月にわたって不安定な状況が続いてきたのに、現在は選挙戦が世論調査の予測どおりに進み、大半の激戦州で有権者の支持が二分されていることだ。

ジョー・バイデン大統領が民主党の大統領候補だったことと彼への低い支持率は、「常態」の選挙にはないものだった。選挙戦での失策や高齢への不安から、民主党支持者の熱意はかつてないほど低下していた。

目下の選挙戦は、私たちが1990年代以降の選挙で経験してきたものに戻っている。候補者が暗殺未遂に遭っても、討論会で決定的に優れたパフォーマンスを見せても、流れを大きく変えることがない選挙だ。ハロウィーンまでにさらに衝撃的な出来事が起きたとしても、ニュース番組が一瞬騒ぎ立てるだけで、共和党と民主党を隔てる壁は変わらずに残るだろう。

この壁は土壇場での民主党候補の交代や共和党候補への2度の暗殺未遂、そして両党の劇的な党大会や中東での紛争があっても崩れなかった。どれだけ劇的なサプライズが起こったところで、有権者の基本的な考えは変わらない可能性が高い。

Foreign Policy logo From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中