最新記事
トランプ

トランプの「思い込み」外交で崩れゆくアメリカの優位性...失われる建国以来の「強さの源」とは?

TRUMP 2.0 WOULD BE A DISASTER

2024年7月31日(水)10時37分
スティーブン・ウォルト(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト、ハーバード大学教授)

2019年米朝首脳会談のときの新聞

2019年にハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談は非核化をめぐり合意に至らず LINH PHAM/GETTY IMAGES

1日で戦争を終わらせる?

トランプは自分の魅力で北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)を手なずけ、核開発をやめさせられると本気で思い込んでいた。制裁関税を科しても、中国は報復しないだろうと高をくくってもいた。

「ディールの達人」を自称するわりに他国との交渉では大した見返りなしにやすやすと譲歩。イランとの核合意や気候変動対策の国際的な枠組みであるパリ協定など、アメリカの国益にとって極めて重要な合意から次々に離脱した。


こうしたやり方は2期目にはさらにエスカレートしそうだ。2期目のトランプ政治を予想するには、保守派シンクタンクのヘリテージ財団が発表した「プロジェクト2025」が参考になる。

そこには国務省を弱体化させる措置が列挙されている。例えば、新大統領の就任日に世界各国に駐在する米大使に一人残らず辞表を提出させるという案......。

それ以上に重要なのは、この文書が掲げる外交政策は基本的に同盟国にも敵対国にも最後通牒を突き付け、有無を言わさずアメリカの要求をのませるものだということ。これは恫喝であって外交ではない。

外交の中でも特に経済に関わるトランプの政策は国益を大きく損ないかねない。1期目に彼が仕掛けた対中貿易戦争は、米経済に恩恵以上に大きな損失をもたらした。

それに懲りずに、トランプは再選されたら「倍賭け」する気でいる。ただ前回と違って、中国だけでなく貿易相手国に軒並み高関税を課す考えだ。

こうした保護貿易主義が自国経済の成長を妨げることは経済学の常識だが、トランプはそれを堂々と公約に掲げている。

問題は保護主義の脅威だけではない。国際社会における影響力を支えるのは経済力だ。2期目のトランプ政権下では米経済の不振が予想され、国際政治の舞台でアメリカの影響力はさらに低下する恐れがある。

アメリカが直面している主な戦略的課題についても、楽観はできそうにない。中国をアメリカの利益に対する長期的な挑戦者と見なしている点は、トランプもほとんどの人も変わらない。問題は、彼の対中政策が矛盾だらけだということだ。

1期目の就任直後にTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱したことは、東アジアでアメリカの経済的影響力を維持するための取り組みを台無しにした。

また、中国が台湾を攻撃した場合にアメリカは台湾を支援するべきか、トランプは以前から疑問視している。しかし、中国がアジアの現状を修正しやすくする(そして、世界最先端の半導体メーカーのいくつかを支配下に置く可能性がある)ことは、中国を牽制するという願望と矛盾する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国経済運営は積極財政維持、中央経済工作会議 国内

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ビジネス

EU理事会と欧州議会、外国直接投資の審査規則で暫定

ワールド

ノーベル平和賞のマチャド氏、「ベネズエラに賞持ち帰
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中