最新記事
日本社会

街の書店が激減しているのは、ネット書店のせいだけではない

2024年7月11日(木)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

だが、ネット書店に押されていることだけが原因とも言えない。書籍への需要そのものが減っていることも考えられる。<図2>は、国民の読書実施率の変化をグラフにしたものだ。各年齢層のドットをつないだ折れ線にしている。

newsweekjp_20240711012544.png


 

働く年代で読書実施率は低下している。人手不足で労働時間が長くなっていることから、時間的なゆとりがなくなっているのかもしれない。インターネット上の動画やSNS等で、効率よく知識を得ようという「タイパ」志向が強まっていることも考えられる。本を手にしようという人が減れば、書店も減る。

反対に書店の減少が、読書離れを引き起こしてもいる。気軽に立ち寄れて、思いがけない本と出会い、実物を手に取って眺めることができる書店が減ったら、読書から遠のく人が増える。子どもは特にそうで、厚みのある活字の本を手に取り、自身の想像力を働かせたり深く考えたりしなくなることは、人間形成の上でも問題と言える。

書店の減少と国民の読書離れ。この2つが互いに影響しながら進行し、公共図書館を見ても、そこで働く職員(司書等)の非正規化がものすごい勢いで進むなど、文化の基盤が揺らいでいる。90年代以降の「失われた30年」において、経済的貧困と同時に「文化の貧困」が進んできたことにも注意しないといけない。

もっとも、ドライバー不足による物流逼迫でネットショッピングが機能しなくなったら、リアルの書店が復活する可能性もある。最近では、住民が店内に書棚を設け、自分が所有する本を売ったり貸したりする「シェア型」の書店も考案されている。これまでとは違った、新たなタイプの「知の拠点」が各地に増えることを期待したい。

<資料:総務省『事業所・企業統計調査』(1991年)
    総務省『経済センサス(活動調査)』(2021年)
    総務省『社会生活基本調査』(時系列統計)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:米雇用大幅下方修正と局長解任、データ信頼

ワールド

原油先物下落、OPECプラス有志国の9月増産合意受

ビジネス

ボーイングのセントルイス防衛部門労働者、4日ストラ

ワールド

パレスチナ国家樹立まで「武装解除せず」、ハマスが声
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザベス女王の「表情の違い」が大きな話題に
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    すでに日英は事実上の「同盟関係」にある...イギリス…
  • 10
    なぜ今、「エプスタイン事件」が再び注目されたのか.…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 6
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中