「劇場型政治家」小池百合子の限界...頼れる誰かに擦り寄る力と「丸のみ」にした3つの政策

OPPORTUNIST SUPREME

2024年7月5日(金)17時18分
広野真嗣(ノンフィクション作家)

newsweekjp_20240704050323.jpg

東京五輪開催も迷走しつつも実現 KIM KYUNG-HOONーREUTERS

公明党は従来から、支持母体である宗教法人・創価学会(本部・新宿区)のお膝元である東京都では、与党であることにこだわってきた。さらに新人が多い都民ファに代わって、議会運営の経験を持つ公明党の存在感は年を追うごとに大きくなった。

そして際限のないバラマキを主導するようになったのだ。

自民党と小池の関係が修復する少し前、ある都議会公明党幹部は小池批判に血道を上げる自民党都議のことを「軍鶏(しゃも)のけんかみたい」と嘲笑する一方、政策を丸のみしていく小池のことは「やりたいことなんてないんじゃない? 知事になりたかっただけの人だから」と語っていた。


腰を低くするほかない小池を前に、公明党はわが世の春を謳歌していた。

ちなみに、所得制限の完全撤廃の発表は昨年12月に唐突に今春開始が発表された。その唐突さから、国政転出と知事3選両にらみのアピールのにおいが漂った。実際、小池に長期的な時間軸を持った深い考えがあったとは思えない。

開始直後から、近隣の神奈川、埼玉、千葉の3県知事それぞれから「都が打ち出す施策に追い付くことができない」(神奈川県知事・黒岩祐治)などと苦言や不均衡への懸念の声が相次いだのは当然のことだ。

子育て世帯は東京に移住したほうが有利になり、一極集中に拍車をかける懸念がある。小池は「本来は国が責任を持って行うべき」と、またしても国のせいにしてかわしたが、ならば国に働きかけるのが先だろう。

さらに無償化で受験生の私学志向が強まることは間違いない。人口減少と相まって、都立では上位の進学校でさえ5、6年後の定員割れが予測されている。

明治から戦後の復興期にかけて、日本は私立と公立を車の両輪にすることで、急増する進学需要と高い教育レベルを両立させてきた。だが定員割れで都立の統廃合が加速すれば、僻地から順に都立校が消え、選択肢の幅は大きく減ることになる。

小池と公明の蜜月のレガシーが、東京都の教育レガシーを崩壊させるなど笑えない冗談ではないか。

20年知事選で、自民党は独自候補の擁立を断念。小池が圧勝したのは前述のとおりだが、同時に行われた4つの都議補選で自民党が全勝し、小池と自民党の双方ウィンウィンの結果となった。

都民ファの候補の応援をせず、いわば部下を見捨てて得たこの結果に、小池は深い満足の表情を浮かべていたそうだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米雇用4月17.7万人増、失業率横ばい4.2% 労

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日に初対面 「困難だが建

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中