最新記事
人と動物の共生

年間200万件の動物衝突事故に挑む、野生動物用トンネルと陸橋の効果とは?

Wildlife Crossings Are a Bear Necessity

2024年6月5日(水)11時30分
ジェフ・ヤング

newsweekjp_20240605013942.jpg

道路の下に造ったトンネルは、クマなど多くの生き物に利用されている COURTESY OF PATRICIA CRAMER, COLORADO DOT, PARKS & WILDLIFE, AND ECO-RESOLUTIONS

父が造った道路を「改良」

またモンタナ州とその周辺では、州間ハイウエー網の拡大により大型哺乳類の事故死が急増している。一方でワピチ(シカ科の動物)やプロングホーン、キツネ、アメリカクロクマやコヨーテなど多くの生物が通路を利用していることが観察されており、通路の設置数も増えているという。

「スカンクも通るし、ジャックウサギもいて、本当にかわいい」とクレイマーは言う。「ボブキャットやアナグマもいる。アナグマは足が短くて毛がふさふさで、空飛ぶじゅうたんが空中に浮かんで通路を通り抜けているみたいに見える」

種の違いを超えて、動物たちが他の動物から「学習」している様子もうかがえるという。「ミュールジカは先生役」だとクレイマーは言う。

ワピチなどの群れをつくる動物は、狭い所で肉食動物に襲われることを懸念してか、最初はトンネルを使うのを躊躇することが多い。ところがミュールジカはワピチほど警戒心が強くないから、ためらわずトンネルを通る。するとワピチもついてくるのだそうだ。「先生役のシカが通路にいて、他の動物にどうしたらいいか教えてくれる例は、ユタ州やコロラド州やワイオミング州で観察されている」

クレイマーによれば、ワピチやプロングホーンやオオツノヒツジがよく使うのは、道路をまたいで設置された陸橋型の通路だ。「たくさんのワピチが通ってくれて本当にうれしい」と、クレイマーは言う。こうした通路を設置した道路では、車と野生動物の衝突事故が75~90%減るという。

「人間の側から見ても、通路の設置はコストパフォーマンスのいい対処法と言える」とクレイマーは言う。野生動物との衝突による人間の犠牲や車の破損を防げるからだ。「西部の複数の州では、通路を設置して5年もしないうちに元が取れている」

また、気候変動によりこれまでの生息地がすみにくくなり、新たなすみかを探す必要に迫られる動物は多いとみられる。「新しい土地に移動しなければならないのに、現状では(道路によって)閉じ込められた状態だ」とクレイマーは言う。クレイマーら専門家たちは昨年、気候変動への対応として通路を整備する予算を増やすよう求める声明を出した。

動物専用通路の整備は、道路網が自然界に与えた被害を多少なりとも埋め合わせることにつながるとクレイマーは考えている。「人間がめちゃくちゃにしてしまったものを直せるなら、それは素晴らしいことだ」と言う。

こうした思いには、クレイマーの個人的な事情も反映されている。「私の父は土木技師で道路を造っていた。その道路を改良するのは、娘にぴったりの役目だと思う」と彼女は語った。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中