最新記事
国際秩序

アメリカが焦る...「新・権威主義圏」が変える「世界二分化」の国際秩序

RECKONING WITH A NEW AUTHORITARIAN BLOC

2024年6月3日(月)14時22分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
プーチン 習近平

プーチンの最近の訪中は多くのことを物語る(北京、5月16日) SERGEI BOBYLEVーSPUTNIKーPOOLーREUTERS

<ロシアを「弟分」にしつつも対米関係をこじらせないようにする中国。北アジアへ広がる権威主義圏は、本格的な世界の対立構造への発展に>

ロシアのプーチン大統領が「再選」されてから初の外遊先に中国を選んだことは、進行中の国際秩序の変化を浮き彫りにした。

世界最大のユーラシア大陸に中国、ロシア、さらには北朝鮮も含む新たな同盟関係がつくられている。2022年にロシアが始めたウクライナ侵略戦争の直接的な結果として、新たに「権威主義圏」と呼ぶべきものが出現しているのだ。

ロシアはこの戦争で、ウクライナの併合を目指している。西側諸国はロシアに強力な経済制裁と貿易制限を科し、欧州諸国とロシアの貿易関係、そしてロシアから欧州へのエネルギー輸出をほぼ抑え込んだ。

この状況に付け込んだのが中国だ。ロシアは戦費を稼ぐため、早急にエネルギーを輸出する必要がある。中国そしてインドはこの機に乗じ、ロシアに石油や天然ガスの大幅な値引きをさせることに成功した。

ただし中国は、西側の追加制裁を誘発しないよう慎重を期した。対米関係を余計にこじらせたくないので、武器や機密技術はロシアには直接渡さない。最先端技術について、中国は依然として西側、特にアメリカに大きく依存している。

中国政府は自国企業の西側市場での売り上げに響くことは避けたいため、ウクライナ戦争には日和見的な姿勢を取っている。ロシアとの連携は強めながら、戦争に関する公式の立場はあくまで中立だ。

22年にロシアがウクライナの首都キーウの占領作戦などで行き詰まったため戦争は長期化し、ロシアと西側の対立は深まった。

西側諸国から見れば、ウクライナ侵攻は西側の覇権への挑戦だ。だがプーチンは、かつての冷戦の結果を修正して超大国の地位を取り戻す道として位置付けている。

アメリカとその同盟諸国と争って栄光を取り戻せると考えているなら、プーチンとロシアのエリート層は大変な思い違いをしている。

ロシアにはそんな経済力も技術力もない。プーチンは国のために何もやっておらず、ロシアを新たな超大国である中国に依存する弟分にしてしまった。

先頃のプーチンの訪中は、誇大妄想の彼が率いるロシアと慎重な中国という対照的な2国の関係が強化されていることを示している。北アジアへ広がる権威主義圏が出現したことで、ウクライナ危機は本格的な世界の対立構造に発展しかねない。

世界の二分化の輪郭は既に見え始めている。グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の多くは、新たな権威主義圏に味方しようとするだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドが空軍基地3カ所を攻撃、パキスタン軍が発表

ワールド

アングル:ロス山火事、鎮圧後にくすぶる「鉛汚染」の

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 7
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 8
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中