最新記事
中東

交渉による「平和」か、さらなる「地獄」か?米軍の「イラン系組織空爆」の危険な駆け引き

The Strategy of U.S. Drone Strikes

2024年2月16日(金)15時40分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)
米軍「イラン系組織空爆」の皮算用

今回のイラクとシリアへの攻撃ではB-1爆撃機が使われた U.S. AIR FORCE PHOTO BY STAFF SGT. HANNAH MALONE

<ハマスとイスラエルの停戦交渉は進まず、アメリカのイラク・シリア空爆で紛争は拡大の気配。しかし、和平を実現するための「綱渡りの道」はまだ残されている...>

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が始まってから4カ月以上が過ぎた。

双方とも疲弊し、停戦合意に、そして紛争の恒久的解決につながる合意にかなり近づいているが、一方で事態が制御不能になり、戦火が中東全域に拡大するリスクも同じくらい高まっている。

交渉による平和か、さらなる地獄か。

中東地域のあちこちで火の手が上がり、いつどこに飛び火してもおかしくない危険な綱渡りだが、運がよければ一発逆転で火を消すことも可能な情勢だ。

2月2日、米軍はイラクとシリアの領内を空爆し、イラン系武装組織の司令部や情報部、ロケット弾やミサイルなどの供給ラインや保管所などの軍事目標に対して125発以上の精密誘導ミサイルとドローンを放った。

公式発表によると、85の標的のうち84が破壊もしくは損壊された。

この攻撃は、1月28日にヨルダン北東部の米軍基地が武装組織によるドローン攻撃を受け、米兵3人が死亡した事件への報復だ。

昨年10月7日のハマスによるイスラエル奇襲以来、イラン系武装組織は周辺地域に駐留する米軍施設に無人機やミサイルによる攻撃を165回も行っているが、人命の喪失は初めてだった。

ジョー・バイデン米大統領は難しい選択を迫られた。

アメリカ人の命を奪うような攻撃には重い代償が伴うことを思い知らせるためには強力な反撃が必要だが、それで抗争をエスカレートさせるわけにはいかない。

だからイラン本土への攻撃やイラン軍人の殺害は(少なくとも現時点では)控える一方、イラン側の軍事的資産に一定の損害を与える必要があった。

「危険な賭け」に成果あり

イランの指導者たちは、アメリカやイスラエルとの戦争は望まないと、公式にも非公式にも表明している。

バイデンも同様だ。昨年10月7日の奇襲直後にアメリカが2隻の空母を地中海に派遣したのも、イラン軍の動きを抑止するのが目的であり、イランを攻撃する意図はなかった。

今のイランは、いわゆる「抵抗の枢軸」を構成する中東各地の武装勢力に武器と資金を与え、地域全体の秩序をひっくり返そうとしている。

だからアメリカは2月2日の空爆(と、それに続く複数の追加攻撃)でイラン政府に、傘下の武装勢力を抑え、間違っても自国の軍隊を動かすなというメッセージを送った。

危険な賭けだが、一定の成果はあった。

あれ以来、シリア領内にある米軍施設へのロケット弾攻撃はわずか3回のみで、新たな米兵の犠牲は出ていない(ただしアメリカが支援するクルド人兵士6人が死亡)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダとインド、貿易交渉再開で合意 外交対立で中断

ワールド

ハマス代表団、エジプト情報機関トップと会談 イスラ

ワールド

ブラジル前大統領を拘束、足首の監視装置破損で逃亡の

ビジネス

ムーディーズ、イタリアを23年ぶりに格上げ 「Ba
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中