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2023年12月28日(木)11時50分
マイケル・イグナティエフ(歴史家)

ウクライナを見捨てる可能性

内政の混乱も同盟諸国には頭痛のタネだ。深刻な党派対立による政治の停滞は、国外における力の行使にも不確実性をもたらしている。

今のアメリカの政治システムは病んでおり、それがアメリカ外交にどう影響するかは予測しにくい。何しろ今は下院共和党の一握りの強硬派議員が、ウクライナへの軍事支援に必要な資金の拠出を止めることもできる。こんな状況では誰も、対ロシア戦へのアメリカの長期的な関与を確信できない。

歴史を振り返れば、ベトナム戦争を戦っていたアメリカは1968年のテト攻勢で甚大な損害を被ったのを機に、和平の模索へと舵を切り、当時の南ベトナム政府を見捨てたのだった。

選挙の年には何があるか分からないから、議会でウクライナ支援への支持が増える可能性もあるが、その逆も十分にあり得る。

後者であれば、ウクライナに対する月額10億ドル超の財政・軍事支援が止まる。そうなったらウクライナは、奪われた領土を回復できないまま、和平に応じざるを得なくなる。

そしてロシア(とその背後にいる中国)は、武力でヨーロッパ大陸の国境線を書き換えたという実績を誇れることになる。

欧州の未来が懸かっている

アメリカが抜けた穴を、ヨーロッパ諸国だけで埋めることはできない。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は防衛力強化によるヨーロッパの「戦略的自律」を唱えているが、その実現は遠い先の話だ。

もしもバイデン政権が議会の支持を取り付けられなければ、ウクライナへの支援は止まる。仮にトランプがホワイトハウスに戻れば、きっとゼレンスキーに敗北を認めろと迫る。

かつての古代ローマ帝国は、宿敵カルタゴを度重なる戦争で痛め付け、和平を結ぶたびにその主権と領土を奪い、ついには壊滅させた。同じことが、ロシアとウクライナの間で起きたらどうなるか。

ヨーロッパ全体が、もう安心して眠れなくなる。なぜなら、それはヨーロッパが史上初めて、ロシアと中国の牛耳るユーラシア同盟に屈することを意味するからだ。

最悪のシナリオだ。しかし、このシナリオを回避する道はある。まずアメリカ人が、ヨーロッパの安全はアメリカの死活的に重要な国益であることを思い出すべきだ。

そしてヨーロッパの人がアメリカの約束する安全保障へのただ乗りをやめ、自らの軍事力強化に取り組むことも必要だ。ヨーロッパの未来はウクライナの運命に懸かっている。この点を忘れてはならない。

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