最新記事
東南アジア

南シナ海で中国がフィリピン船舶を威嚇する「本当の狙い」...西側企業の「フレンドショアリング」潰し

2023年12月18日(月)18時00分
エリザベス・ブラウ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)
中国海警局の艦艇

フィリピンの補給船(左)に放水を浴びせる中国海警局の艦艇(23年12月) PHILIPPINE COAST GUARDーHANDOUTーREUTERS

<中国の危険な挑発行為が急増している。もちろん領有権を主張するためだが、それだけではない>

去る12月9日、南シナ海のスカボロー礁周辺で、中国海警局の艦艇がフィリピンの補給船団に放水を浴びせて威嚇し、漁船への燃料搬入を妨害した。現場はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内だが、中国が2012年以来実効支配しており、両国の小競り合いが絶えない。

特にここ数カ月で中国側の危険な挑発行為が急増しており、生産拠点をフィリピンに移そうとしている米欧企業の間で懸念が広がっている。そして実は、それこそが中国側の狙いかもしれない。

領有権をめぐる争いのある海域、いわゆる「グレーゾーン」での危険行為を監視・報告する米スタンフォード大学のプロジェクト「シーライト」を率いるレイ・パウエルによれば、中国は南シナ海を自国の領海と一方的に宣言しており、異を唱える周辺諸国を威嚇するため、見せしめにフィリピンをいじめている。

これにはアメリカ政府も警戒を強めており、最近はフィリピン沖に米軍の哨戒機を飛ばし、中国側がフィリピンの船舶を威嚇している現場の上空を旋回させている。だが現実問題として、中国側の乱暴な振る舞いを止める手段はないに等しい。アメリカとしても、ここで中国と戦火を交えるリスクは取れない。

中国に生産拠点を置いてきた多国籍企業の多くは今、政治的・経済的なリスクを回避するため、もっと友好的な国へ工場を移そうとしている。いわゆる「フレンドショアリング」だ。

その場合の移転先として有力な候補の1つがフィリピン。西側諸国に友好的だし、労働者の教育水準は比較的高く、英語を話せる人も多い。地理的に中国に近いから、移転に要する時間やコストも、そう大きくない。周辺の東南アジア諸国との関係もいいから、分業体制の構築も容易だ。

移転候補国同士の競争は熾烈だ。コンサルティング会社カーニーが23年7月に発表したフレンドショアリングの候補地ランキングで、フィリピンは21年から3つ順位を落とし、12位にとどまった。メキシコなどが誘致攻勢を強めた結果だ。

どんな企業も、工場の立地を決めるに当たっては港へのアクセスを重視する。原材料の輸入にも製品の輸出にも港は不可欠だ。しかし港が近くにあっても、そこから安全に船を出せなかったら?

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ハイテク株に売り エヌビディア

ビジネス

NY外為市場=円が対ドルで上昇、介入警戒続く 日銀

ワールド

トランプ氏「怒り」、ウ軍がプーチン氏公邸攻撃試みと

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「第2段階」移行望む イスラエ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中