最新記事
天体観測

土星の環が消失?「天体の不思議」土星の素敵な環を観測したいなら今がベストタイミング

No More Rings Around Saturn?

2023年12月1日(金)17時35分
ジョンティ・ホーナー(豪サザンクイーンズランド大学教授)
土星の環

約15年に1度、土星の環は地球上から見えなくなる NASA/JPL-CALTECH/SPACE SCIENCE INSTITUTE

<土星の環が2025年にはほとんど見えなくなる。その背後にある科学を理解し、晩秋の夜長に望遠鏡を手にして夜空を見上げてみれば、天体の奇跡のトリックが見えてくる>

望遠鏡を手に夜空を眺めたとき、最も壮麗な光景を楽しめる天体といえば、巨大な環をまとった惑星、すなわち土星だろう。

筆者のいるオーストラリアでは、今が土星の見頃だ(編集部注:日本でも12月頃まで見える)。日没後、最も高い位置に昇ったときが理想的なタイミング。望遠鏡や高性能な双眼鏡を使えば、太陽系第6惑星とその有名な環を観測できる。

だが最近、ソーシャルメディアには土星の環に関する不穏な記事が出回っている。土星の環が急速に消えかけており、2025年までに消滅してしまうというのだ。

どういうことか。宵の空に土星がくっきり見えるのは年末までだが、もしかして、あの立派な環は今年が見納めなのか?

ご心配なく。25年に土星の環が地球からほとんど見えなくなるのは事実だが、これは驚くべきことではないし、パニックになる必要もない。しばらくすれば、環はまた見えるようになる。なぜか?

土星の見え方は年によって変わる。土星も地球も「公転」しているからだ。地球は常に、太陽の周囲を回る旅を続けている。そのせいで季節があり、冬から春、夏から秋へと巡り、また繰り返す。

季節はなぜ変わるのか。簡単に言えば、太陽から見ると、地球が一方に傾いているからだ。地球の赤道は軌道面から約23.4度傾いている。

その結果は? 地球は太陽の周りを移動しながら、片方の半球ともう片方の半球を交互に太陽の方角に向けており、太陽側に傾いた半球では昼が夜より長くなり、春と夏になる。一方、太陽から遠ざかった半球では昼が短く夜が長くなり、秋と冬になる。

太陽の側から見ると、地球は公転を続けながら交互に別な半球を向けていることになり、顔を上下に動かしているように見えるはずだ。

さて、土星にも地球と同じように四季があるが、公転周期が長い(29.5年)ので、季節の長さは地球の29倍以上になる。また地球の赤道が軌道面に対して約23.4度傾いているのと同様、土星の赤道も26.7度ほど傾いている。

つまり太陽から見ると、土星も顔を上下に動かしているように見える。地球から見ても同じだ。

環の向きで変わる見え方

では、土星の環はどうか。

あの環は氷やちり、岩石で構成された複雑なシステムで、土星の表面から28万キロも離れた空間にまで広がっている。

ただし、環の厚みは極めて薄く、だいたい数十メートル程度だ。環は土星の赤道の真上を回っているので、土星の公転軌道に対しては同様に26.7度ほど傾いている。

この傾きが土星の環を消す。環の厚みが非常に薄いため、遠くから見ると、角度によっては面ではなく細い線にしか見えない。

この現象を理解するには、一枚の紙を手に取ってみるといい。目の高さで紙を水平に保持すると、紙の面は見えず、細い線にしか見えない。

土星の環も同じだ。

土星が公転軌道のどこにあるかで、その見え方は変わる。軌道を半周する間は土星の北半球が地球の側に傾き、その環も北側の面がこちらに傾く。

土星が太陽の反対側にいるときは、南半球が地球の側を向いている。同様に、土星の環も南の面がこちら側に傾いた状態で見える。

この仕組みを目で理解する最もいい方法は、やはり紙を使うことだ。

紙を水平に、つまり地面と平行にして、目の高さに掲げよう。次に、紙を地面に向かって少し下に傾けると、紙の上面が見える。紙を目線より上に戻すと、今度は裏面が見える。

しかし目線と水平になった瞬間には、紙の面は全く見えなくなる。

これが土星の環の見え方だ。

土星の季節が進むにつれて見え方が変わり、地球から環の南側が見える状態から北側が見える状態に移行する。その後はまた、環の南側が見える状態に戻る。

つまり、土星の公転周期には2度、その環が地球に対して水平になるタイミングがあり、その時期には地球からは環が消えたように見える。

この現象が2025年に起きる。

私たちが環を水平方向から見ることになるので、環は限りなく細い線になり、「消えて」しまう。

この現象は定期的に起きる。前回は2009年で、数カ月かけて徐々に再び環が見えるようになった。

今回は25年3月に、環が地球から見えない位置にくる。その後、大型望遠鏡であれば少しずつ見える状態になるが、25年11月には再び見えなくなる。

しかし、しばらくするとまた見えてきて、数カ月待てば、また大型の望遠鏡なら見えるようになる。だから心配は無用だ。

結論。土星の素敵な環を観測したいなら今がベストタイミング。

今を逃したら、次にくっきり見えるのは早くても27年か28年だ。

The Conversation

Jonti Horner, Professor, University of Southern Queensland

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米クラウドフレアで一時障害、XやチャットGPTなど

ワールド

エプスタイン文書公開法案、米上下院で可決 トランプ

ビジネス

トヨタ、米5工場に1400億円投資 HV生産強化

ビジネス

ホーム・デポ、通期利益見通し引き下げ 景気不透明で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中