最新記事
世界秩序

世界秩序を変えてしまった「2つの戦争」...次の「世界覇者」はどの国なのか?

THE WARS OF THE NEW WORLD ORDER

2023年11月21日(火)14時00分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
米中国旗

米主導の世界秩序が改められるなら、紛争が絶えない今は中国が有利 PHOTO ILLUSTRATION BY JAKUB PORZYCKIーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<紛争が絶えない世界で有利な中国、軍事経済化が進むロシア、経済的重要性が増すグローバルサウス...。アメリカの力が陰るなか、次の世界秩序をつくるのはどこか?>

この数年で世界の地政学的環境は驚くほど変わってしまった。

いま火を噴いている2つの戦争を見ればいい。大国間の対立が再び国際関係の軸になっているではないか。

パレスチナ自治区ガザとウクライナの戦争は世界の分断を進め、深刻な地政学的再編を促し、世界秩序が描き直されるかもしれない。

この2つの戦争で第3の戦争のリスクも高まっている。台湾をめぐる戦争だ。

アメリカはウクライナとイスラエルに、自国の弾薬や誘導爆弾、ミサイルなどをせっせと運んでいる。アメリカの武器庫が空っぽになるのは時間の問題だ。

それくらいは誰にも、もちろん中国の習近平国家主席にも分かる。台湾の統合を自国の「歴史的使命」と呼ぶ習にとって、この2つの戦争は長引けば長引くほどいい。

バイデン米大統領もそれを承知で、だからこそ今は中国との緊張緩和を探っている。閣僚を次々に中国へ送り込む一方、サンフランシスコで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議では習との直談判に臨んだ。

G7の首脳は口をそろえて、中国との「デカップリング(関係遮断)」ではなく「デリスキング(リスク低減)」を強調している。

呼び方はどうあれ、このプロセスで起きるのは世界の金融秩序の再編成だ。投資と貿易の流れは変わりつつあり、世界経済は2つのブロックに分裂しかねない。

既に中国とグローバルサウスの貿易量は、対西側陣営よりも多い。将来的な台湾侵攻での制裁リスクに備え、中国は西側との経済的デカップリングを粛々と進めている。

現行のシステムは「ルールに基づく世界秩序」と呼ばれる。いかにも中立的な表現だが、実態はアメリカ中心の仕組みだ。

土台となるルールの大筋を作ったのはアメリカであり、アメリカは内政不干渉などの主要ルールも自国には適用されないかのように振る舞っている。国際法は非力な国には強力だが、強力な国には無力だ。

従来の世界秩序に取って代わる秩序をつくる段になると、紛争が絶えない今の世界情勢は中国に有利かもしれない。


ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア停戦を評価 相互信頼再構

ワールド

米ロ首脳が電話会談、両氏は一時停戦案支持せずとロ高

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中