イスラエル軍もハマス軍事部門も「直面したことがない事態」...イスラエル精鋭部隊「サエレット・マトカル」はどう動くのか?

A RESCUE OPERATION LIKE NEVER BEFORE

2023年11月2日(木)14時25分
トム・オコナー、デービッド・ブレナン(いずれも本誌記者)

231107P46_CMD_02.jpg

ネタニヤフは1972年、人質奪還作戦に特殊部隊の一員として参加して表彰された。左は当時のシャザール大統領 GPO/GETTY IMAGES

機内では乗客3人が負傷し、うち1人は後に死亡した。ネタニヤフ自身も負傷した。隊員の1人が拳銃で犯人を殴打したとき、暴発した弾丸が彼の手に当たったのだ。

その4年後、サエレットはまたも大胆な奇襲作戦で名を上げた。76年、アフリカ東部ウガンダの首都郊外にあるエンテベ空港で、パレスチナ解放人民戦線・外部司令部派(PFLP-EO)がエールフランス139便を乗っ取り、乗客100人以上を人質に取り、500万ドルと同志53人の釈放を要求した。

イスラエル政府はサエレットに出動を命じた。ネタニヤフの兄ヨナタンを含む隊員たちは貨物機で空港にひそかに着陸。当時のウガンダ大統領イディ・アミン(テロリストを擁護していた)の車列を模した黒いベンツで移動を始めた。だが大統領専用車はしばらく前に、新型の白いベンツに変更されていた。

元隊員ネタニヤフの対応力

空港に配置されていたウガンダの警備隊はその怪しい車列に気付き、人質の拘束されているターミナルに向かうサエレットの部隊と激しい銃撃戦になった。

結果的にサエレットはハイジャック犯全員を殺害したが、ウガンダ兵数十人も犠牲になった。人質の犠牲は4人だった。イスラエル側の犠牲も1人いたが、それがヨナタン・ネタニヤフだった。

いわゆる「サンダーボルト作戦」だが、今は故人に敬意を表して「ヨナタン作戦」と呼ばれている。

弟のネタニヤフは40年後の2016年に首相としてエンテベ空港を訪れ、「兄が死んだとき、私たちの世界は破壊された」と述べている。また、兄を失ったことがきっかけで、自分は政治家としての道を歩むことになったとも語っている。

首相として最初の任期(96~99年)の後を継いだのは、サエレットの司令官だったエフド・バラク。アイソトープ作戦や、ミュンヘン五輪でのイスラエル選手団虐殺事件の報復としてレバノンでパレスチナ解放機構(PLO)の高官を殺害した73年の「若者の春作戦」を指揮した人物だ。ヨナタン作戦やその他の秘密作戦の実行にも参画している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格、6月前年比+2.6%に加速 前月比+

ビジネス

再送-トランプ大統領、金利据え置いたパウエルFRB

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中