最新記事
カナダ

シーク教徒指導者殺害で激しく対立するインドとカナダがこだわるカリスタン運動とは

As Assassination Drives India and Canada Apart, China Gets a Free Pass

2023年9月26日(火)14時09分
ダニシュ・マンズール

トルドーに抗議するヒンドゥー教の活動家(9月24日、ニューデリー) REUTERS/Altaf Hussain

<カナダ在住のシーク教独立運動指導者が殺害された事件で、インド政府の関与を疑うカナダ政府に対し、インドが猛反発。怒りの背景には、積年の恨みがあった>

【動画】裸の女性を「パレード」のように引きずり回すインド・マニプール州の暴徒たち

カナダ在住のシーク教指導者ハーディープ・シン・ニジェールが殺害された事件について、インド政府が関与した可能性があるとカナダのジャスティン・トルドー首相が発言したことで、インドとカナダの関係は外交的危機の瀬戸際に立たされている。背景にはこの事件や発言だけでなく、インドのシーク教徒の分離主義運動をカナダ政府が支援しているのではないか、という長年の疑心暗鬼が大きな流れとしてある。

この衝突を世界が注視するなか、インドは断固として暗殺との関わりを否定。カナダの特定の政治家や当局者が、独立国家カリスタンの創設を目指すシーク教徒の分離主義グループを間接的に支援している可能性を指摘して、それが両国関係を緊張させていると主張した。

カリスタン運動はインドのパンジャブ地方にシーク教徒の独立国家創設をめざす運動で、インド政府としては到底容認できない反政府分子だ。ニジェールはその過激派とつながっていたとしてインドで有罪判決を受けた「テロリスト」なのに、カナダ政府はその身柄を拘束しようともしなかった、というのだ。

トルドー首相は2023年7月、記者団に対し、カナダは「表現の自由」を支持しているに過ぎないと述べた。「この国は多様性が非常に豊かな国であり、われわれには表現の自由がある」

トルドーはこの危機について公然とインドを非難し、議会下院で、ニジェールの死についてインド政府のいかなる関与も「容認できない」と述べた。カナダのメラニー・ジョリー外相も、インドが関与しているという主張が事実であれば、それは「わが国の主権に対する重大な侵害」になると述べた。

カナダ野党も「造反」

この騒動で、カナダに駐在するインドの高官らは国外退去となった。インド政府も対抗してカナダの高等弁務官を召喚し、インドに駐在するカナダの外交官を国外追放すると伝えた。

インド外務省の声明によれば、「今回の決定は、カナダ外交官の内政干渉や反インド活動への関与に対するインド政府の懸念の高まりを反映したものである」。

トルドーにとってさらに事態を悪化させたのは、カナダ野党・保守党のアンドリュー・シーア党首の発言だった。ニジェールの死はインドによる陰謀だというカナダ政府の説は「根拠がなく、受け入れがたい」と彼は述べた。

「首相の無能さは、世界最大の民主主義国家であり、アジアの新興大国であるインドとカナダの関係に深刻なダメージを与えている。首相は最終的に正しい振る舞いを選び、自分の陰謀説を証明する何らかの証拠を出せるのだろうか」

インド政府もシーク教徒の分離主義運動を取り締まらないカナダの姿勢を批判した。

「この問題に対するカナダ政府の不作為は、長年の懸念だった。カナダの政治家がこのような勢力に公然と同調を表明していることは、非常に重要な問題だ」

「カナダでは以前から、殺人、人身売買、組織犯罪など、さまざまな違法行為が容認されている。われわれは、インド政府とこのような動きを結びつけるいかなる試みも拒否する。われわれは、カナダ政府に対し、自国内で活動するすべての反インド勢力に対し、迅速かつ効果的な法的措置をとるよう求める」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中