最新記事
インド

シーク教過激派に復活の足音...米英でインドの外交施設が破壊される事件

Fixing the Sikh Problem

2023年4月4日(火)12時50分
ディンシャ・ミストリー(スタンフォード大学フーバー研究所研究員)、スミット・ガングリー(インディアナ大学政治学教授)
カリスタン運動指導者シン

インド当局はカリスタン運動指導者シン(中央)の逮捕を目指している REUTERS

<国内外で存在感を強める新世代の分離主義と拡大する暴力、複雑な対インド事情を抱える欧米は対応に及び腰だ>

イギリスとアメリカで、インドの外交施設がシーク教徒に破壊される事件が起きた。

3月19日、ロンドンにある在英インド高等弁務官事務所とサンフランシスコのインド総領事館前で行われた抗議活動の際、窓ガラスが割られ、施設スタッフ数人が負傷した。

インドメディアによれば、両施設前に集まったのは、過激なシーク分離主義運動を率いるアムリトパル・シンの支持者とみられる。シンには、インド国家安全保障法に基づく逮捕状が出ている。地元パンジャブ州から逃亡したとされるシンを追って、インド警察は逮捕作戦を展開する一方、同州でシンの支持者を拘束している。

インド外交施設の安全が脅かされた今回の事件は、1980年代初めから約10年間、パンジャブ州で吹き荒れたシーク分離主義運動の嵐の復活を意味しているのかもしれない──アナリストの間では、そう危惧する声が上がる。

過激派シーク教徒による暴力は当時、パンジャブ州の外へも拡散した。84年には、インドのインディラ・ガンジー首相が、シーク教徒の警護警官に射殺される事件が発生。85年に起きたエア・インディア182便爆破事件には、シーク教徒組織が関与していた。

当然ながら、インド政府はシーク分離主義運動の再燃を懸念している。テロの暴力を未然に防ぐには、シーク教徒移民が人口にかなりの割合を占める欧米各国にも、脅威を真剣に受け止めてもらう必要がある。インドにとって、これは注意を要する課題だ。

80年代の分離主義運動は、国外在住のシーク教徒の一部にも支持されていた。最終的に、インド政府の厳しい取り締まりによって運動は沈静化し、パンジャブ州はある程度の政治的安定を取り戻した。

一方、オーストラリアやカナダ、英米のシーク教徒移民の間では、出身地パンジャブ州の独立を求める「カリスタン(純粋なるものの国)」運動が存続した。彼らが社会的影響力を拡大するなか、欧米各国はインド政府によるシーク教徒活動家の処遇に懸念を表明するようになっている。

協力を阻む政治的事情

パンジャブ州で再び、社会不安が深刻化したのは2020年のことだ。農業市場自由化を目的に、農家への補助金を打ち切る新農業関連法が成立すると、パンジャブ州のシーク教徒と農民が大規模な抗議デモを組織。1年以上にわたって首都ニューデリー近郊で道路封鎖などを行い、政府は同法の撤廃に追い込まれた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

メルセデスが米にEV納入一時停止、新モデルを値下げ

ビジネス

英アーム、内製半導体開発へ投資拡大 7─9月利益見

ワールド

銅に8月1日から50%関税、トランプ氏署名 対象限

ビジネス

米マイクロソフト、4─6月売上高が予想上回る アジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 5
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 6
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 10
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中