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南シナ海

中国が南シナ海でフィリピン艦船に放水、進路妨害 領有権巡り非難合戦

2023年8月9日(水)18時23分
大塚智彦

これに対し比側は国家安全保障会議の高官、ジョナサン・マラヤ氏が「フィリピンはアユンギン礁での地位を守る決意は変わらず、それを妨げることはできない。決してアユンギン礁を見捨てることはない」と中国の要求を断固として拒否する姿勢を明らかにしている。

中国は南シナ海の大半が自国の海洋権益が及ぶ「九段線」内として主張。公海上を航行する国際船舶や「航行の自由作戦」を続ける米軍などの艦艇に対しても国際法を無視して抗議する姿勢を続けている。

南シナ海を巡ってはフィリピンの他にマレーシア、ベトナム、ブルネイなどが島嶼や環礁の領有権を主張し、中国との対立が続いている。中国が主張している「九段線」に関してはフィリピンが2014年にオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)に違法性を訴えた。これを受けてPCAは2016年に「九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利は国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」との判断を下した。しかし中国は一貫してこの判断を無視して現在に至っている。

米政府も中国に警告

今回の事態には米政府も素早く反応し、国務省が6日に「中国海警局船舶と民兵船はフィリピン沿岸警備隊の合法的な航行の自由を妨害し、比船舶と乗組員を危険に直面させた」としたうえで「こうした行動は国際法に違反するとともに南シナ海の現状に対する脅威であり、地域の安定と平和に対する脅威でもある」との声明を公式サイトに掲載してフィリピン政府を支持する立場を明らかにしている。

さらに米政府は「南沙省島周辺での比沿岸警備隊などの公船への武力行使は、米比相互防衛協定に基づく(武力の)発動条件になる」とまで言及して中国を強く牽制する事態になっている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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