最新記事
中国

習近平、異例の「琉球」発言...日中関係の新たな問題となるか?

2023年7月25日(火)16時50分
川島真(東京大学大学院教授)
中国の習近平国家主席

中国の習近平国家主席 REUTERS/Florence Lo/Pool/File Photo

<わざわざ琉球に言及した習近平...その背後に隠された意図とは>

昨今、東アジアでは中国の沖縄政策が積極化するのではないかと注目を集めている。それは6月初旬、習近平(シー・チンピン)国家主席が、中国の典籍を集めた中国国家版本館と中国歴史研究院を訪れた際に、わざわざ沖縄(琉球)に言及したからだ。国家主席がこのようなことに言及するのはまれであり、何か意図があるのではないかと臆測を呼んでいる。7月上旬には、玉城デニー沖縄県知事が日本の経済団体と訪中した。

習の発言は、中国国家版本館を見学し、立ち止まりながら展示物についての館員の説明を聞いている時になされ、共産党機関紙の『人民日報』にも掲載された。習がコメントしたのは、明代の『使琉球録』という文書に関する説明がされた時だ。

これは明王朝から琉球に派遣され、明が琉球を冊封(さくほう)することを伝える使節が残した記録である。中国で広く知られているのは、尖閣諸島が中国領であることを記した最も古い著作だと中国で信じられているからだ。習は次のようにコメントした。「私が福州で仕事をしていたとき、福州には琉球館、琉球墓などがあること、また琉球との交流の淵源は大変深く、かつて閩人(びんじん)三十六姓が琉球に行って住んだということも知っていた」

琉球館は冊封・朝貢のために琉球から中国に来た使節らが投宿する施設であり、琉球墓は福州などで死亡した琉球の人々の墓である。閩人三十六姓は久米三十六姓とも言われる人々であり、琉球に到来して琉球の明王朝に対する冊封・朝貢業務を担当した。

習はかつて15年以上福建省に勤務したので、その時のことを思い出したのかもしれないが、この直後に次の文言があることからさまざまな臆測を呼ぶことになった。「総書記は『古典籍や版本を収集して整理していかなければならない。そうすることで中華文明をしっかりと継承し、しっかりと発展させていくことができる』と強調した」。これを読むと、沖縄との関係性が中華文明に含まれているようにも読める。

この一連の習の発言を玉城知事は歓迎し、習が沖縄のことを理解していると高く評価した。

中華人民共和国は沖縄が日本領だと認めている。福岡総領事館の管轄区域内に沖縄県が含まれていることからもそれは分かる。実は、台湾の中華民国政府のほうが、沖縄県が日本領だと言うことを認めていないように見える。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中