最新記事
中朝関係

中国の露骨な「国際条約違反」を許すな...脱北者への「非人道的」な仕打ちの実態と、国連の責任

Don’t Send Them Back

2023年7月11日(火)20時04分
ロバータ・コーエン(北朝鮮人権委員会・名誉共同代表)

事務総長の立場で、今この問題を取り上げれば、国連が北朝鮮の核開発だけでなく人権問題も注視していることを国際社会にアピールできる。収容所にいる北朝鮮人は不法移民であって難民ではなく、帰国後に処罰を受ける恐れはないなどと主張し、送還を正当化する中国の欺瞞を暴く効果もあるはずだ。

90年代半ばに中国と北朝鮮の国境地帯に入った国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調査団は、飢餓に苦しみ食べ物を求めて国境を越えた脱北者は差別的な食料配給制度の犠牲者であり、難民と見なせると結論付けた。

こうした証拠を握りつぶすために、中国は90年代末にUNHCRの調査団が国境地帯に入るのを拒み、08年には首都北京のUNHCRのオフィスに脱北者が駆け込むことを禁じた。今や北朝鮮と密約を結び、脱北者を犯罪者扱いして強制送還しようとしている。中国のこうした露骨な国際条約違反は決して看過できない。

第2にグテレスは部下たちの能力を活用し、外交による解決策を探る各国間の協力の枠組みを構築できるはずだ。

リーダーシップの発揮を

この枠組みには、脱北者の処遇で中国に物申せる国々や脱北者を一時的に受け入れる用意がある国々などが加わることが望ましい。韓国は移住を希望する脱北者を全て受け入れる方針だが、今の政治状況では最初のステップとしてアジアのほかの国が受け入れるほうが無難だろう。

3つ目として、グテレスはUNHCRとOHCHRが連携し、脱北者が希望する国に安全に渡航できる方策を立案するよう指示すべきだ。UNHCR中国オフィスの公式サイトは脱北者の問題に言及すらしていない。

30万人以上のインドシナ難民が「事実上(中国社会に)統合」されていると述べながら、中国社会に統合されることを望んでいる大勢の脱北者の存在には触れていない。中国当局は脱北者を統合するどころか、北朝鮮からの出稼ぎ労働者を取り締まり、中国人男性と結婚した北朝鮮人女性を夫や子供と引き離して本国に強制送還することも辞さない。

中国の難民問題は規模こそ大きくないが、残酷さでは深刻を極める。各国政府と国連がさまざまなレベルで連携し問題解決に当たるには、強力なリーダーシップが不可欠だ。過去には巧みな外交交渉で中国を説得し、脱北者が希望する国に渡航できたケースもある。今こそ国連のトップがそうした交渉に一肌脱ぐべきだ。

From thediplomat.com

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定

ワールド

トランプ政権、亡命申請無効化を模索 「第三国送還可

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中