最新記事
経済制裁

「ザルすぎる」アメリカの対中制裁──米連邦政府職員の年金を「制裁対象」中国企業が運用している

THE CHINA LOOPHOLE

2023年6月29日(木)15時02分
バレリー・バウマン(本誌調査報道担当)、ディディ・キルステン・タトロウ(本誌国際問題・調査報道担当)

TSPの運用資金の一部が制裁対象の企業に投じられることは「経済的にも倫理的にも地政学的にも重大な過ちだ」と、トランプ政権下で無任所大使を務めたネーサン・セールズは警告する。

本誌の委嘱によって、独立した立場でこの問題を明らかにする初の調査が実施された。

米軍の元高官や共和党のマルコ・ルビオ上院議員、民主党のジミー・パネッタ下院議員をはじめ議会のメンバーも公務員の年金が対中制裁の抜け穴に利用されることを懸念している。超党派の10人の議員が昨年、FRTIBに連名で書簡を送り、対策を求めた。

違法でなくても倫理的に問題

キロ・アルファ・ストラテジーズが、MFWのファンドのスクリーンショットを撮って調べたところ、少なくとも115のファンドが、制裁リストに載っている30社の中国企業のうち少なくとも1社に投資を行っていた。115のファンドのうち22は対中投資専門のファンドだった。

TSPの現在の加入者は680万人。その全員がMFWを通じてより広い資本市場で老後のために蓄えてきた虎の子を運用できる。

MFWの利用資格はTSPの口座に4万ドル以上の資金があり、最初の投資に1万ドル以上を充てられること。ただし運用額の上限は口座にある資金の25%までだ。

FRTIBのラビンドラ・デオ事務局長は本誌の取材に対し、米証券取引委員会(SEC)と米財務省の外国資産管理局(OFAC)の規定に抵触しない限り、MFWのファンドは自由に投資先を選べ、FRTIBにはその選択に口出しする権限はないと、文書で回答した。

OFACの「特別指定国民および資格停止者(SDN)」リストは、指定された企業への投資を禁じた唯一のリストだが、先述の115のMFWのファンドが投資する中国企業はいずれもこのリストには載っていない。

FRTIBによれば、MFWを運営しているのは資産運用会社のバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)で、独立したファンドマネジャーが自分のファンドをそこに入れているという。

トランプ政権下で米海軍長官を務めた投資銀行家のリチャード・スペンサーは、ファンドマネジャーは違法行為を犯しているわけではないが、彼らの行為は倫理的には非常に問題があると話す。

「彼らには(制裁対象の中国企業に投資して利益を上げる)権利(ライト)がある。だがそれは正しい(ライト)行為なのか」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、印イエス銀株の取得を完了 持分24.

ビジネス

ドイツ銀、2026年の金価格予想を4000ドルに引

ワールド

習国家主席のAPEC出席を協議へ、韓国外相が訪中

ワールド

世界貿易、AI導入で40%近く増加も 格差拡大のリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中