最新記事
経済制裁

「ザルすぎる」アメリカの対中制裁──米連邦政府職員の年金を「制裁対象」中国企業が運用している

THE CHINA LOOPHOLE

2023年6月29日(木)15時02分
バレリー・バウマン(本誌調査報道担当)、ディディ・キルステン・タトロウ(本誌国際問題・調査報道担当)
アメリカ, 中国

TSOKUR/ISTOCK

<米政府機関下・世界最大の年金資金が、米政府が制裁を科した中国企業に流入。背景には制裁リストが共有されていない問題と、対中投資に前のめりな金融界との複雑な関係>

米連邦政府の何百万人もの職員が加入している年金プラン。その運用資金の一部が政府の制裁対象の中国企業に流入している可能性が本誌の調査であぶり出された。

アメリカの国家安全保障を脅かす恐れがあると見なされたか、強制労働で利益を得るなど少数民族に対する弾圧に深く加担している疑いが持たれる中国企業に、アメリカの公務員が退職後に備えてためた金の一部が流れている、ということだ。

運用資産総額7200億ドルで、世界最大の年金プランである「連邦公務員向け確定拠出型年金(TSP)」は、もともとは少数の手堅い運用商品を用意し、加入者がどれかを選んで掛け金を託す形態を取っていた。

だが2022年6月からその方式を残しつつ新たなオプションが導入され、加入者の選択肢が大幅に広がった。希望者は新たに開設されたポータル、「投資信託窓口(MFW)」にある5000以上のファンドの情報を比較検討して自分に合った運用プランを立てられるようになったのだ。

問題はこれらMFWのファンドの一部が中国株を買っていること。少なくとも9つの米政府の禁輸・監視リストに載った中国企業が投資対象になっていることが本誌の委嘱による調査で確認された(この調査では、超党派のNPO「豊かなアメリカのための連合」のデータを基に、ワシントンのコンサルティング会社キロ・アルファ・ストラテジーズが分析を行った)。

MFWのファンドが投資している中国企業には戦闘機のエンジンや軍艦のタービンなどを開発する軍需企業、中国北西部の新疆ウイグル自治区で当局が拘束した住民をただで酷使している疑いがある企業、アメリカの安全保障を脅かす偵察システムのメーカーなどが含まれている。

公務員のための年金プランであるTSPは連邦機関の「連邦退職貯蓄投資理事会(FRTIB)」の管理下に置かれている。にもかかわらずその運用資金の一部がこうした企業に流れている可能性があるのだ。これでは、米政府の対中制裁にどれだけ実効性があるのか疑わしい。

TSPの運用資金がどの程度制裁対象の企業に流れているかは不明だが、TSPのオプション導入は2つの問題を浮き彫りにした。

1つは、米政府の複数の制裁リストに対し、連邦政府の各機関の連携が取れていないこと。もう1つは、中国の人権問題や貿易ルール違反に厳しい態度で臨もうとする連邦政府と、依然として対中投資に前のめりな金融業界が緊張関係にあることだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中