最新記事

中国

LNGを買い占めた中国...過去18年間の取引を検証、浮かび上がった2つの重要テーマ

China’s Big Gas Bet

2023年6月21日(水)12時30分
スティーブン・マイルズ(米ライス大学ベーカー公共政策研究所フェロー)、ガブリエル・コリンズ(同研究所フェロー)
LNG

REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

<ウクライナ侵攻前後に中国企業による購入契約が激増、ロシアから事前に計画を知らされていたのか>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が最近、ロシアとウクライナの和平をめぐってウクライナに接近し、中立的な仲介役を演じようとしていることで、外交情勢が揺らいでいる。中国は、ロシアのウクライナ侵攻計画について事前に知らされていたとの報道や、北京冬季五輪後まで攻撃を延期するようロシアに要請したとの報道を強く否定してきた。

しかし、中国が何を知っていたのか、その情報を利用してロシアの狙いを支持したのかという疑念は残る。ユーラシア大陸の2つの権威主義大国が共有する戦略的利益を考えれば、この疑念は十分根拠があるかもしれない。ロシアのウクライナ征服が成功すれば、中国にとって台湾への武力行使の強力な前例となる。

筆者らは、こうした疑念を裏付ける中国のエネルギー取引のデータを入手し、過去18年間における世界の液化天然ガス(LNG)の購入取引600件以上を検証した。この定量的指標は、ウクライナ侵攻前後の中国の姿勢が詳細に物語る。そして、これまで公に議論されることのなかった2つの重要なテーマが浮かび上がった。

第1に、中国企業によるLNG購入はロシアによる侵攻前の6カ月間、際立っている。2021年9月1日からロシアがウクライナに侵攻した22年2月末まで、国有企業の中国海洋石油総公司(CNOOC)、中国石油化工集団(シノペック)、中国中化集団(シノケム)を含む中国企業11社が、長期契約(通常4年以上)で世界のLNG購入量の91%以上を占めた。

戦争が始まった後も、中国企業は契約を増やし、他国が供給源を求めて奔走し始めた22年4月までに、世界のLNGの長期契約購入量の57%に達した。21年9月1日~22年4月1日の7カ月間に交わされた複数の契約を合わせると、LNGの年間購入量は2300万トンを超える。それ以前の暦年での購入量の2倍以上だ。06~20年の同国の新規調達量は、年平均約500万トンで、世界の約15%にすぎなかった。

ウクライナ侵攻前の半年間における中国のLNG購入は、11社による22件の契約によるもので、うち1社を除く企業の全てを国または地方政府が所有している。さらに、データに含まれる中国企業20社のうち9社は21年9月以前にはLNGの契約実績がないとみられ、中には中国が世界のLNG調達を独占した21年の第4四半期にのみ契約を締結していた企業もある。この侵攻前の買い占めは、個々のケースが少量であったため見過ごされたが、それらを合わせると、短期で調達可能な量のほとんどが市場から奪われた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中