最新記事
ダム破壊

ダム決壊でクリミアが干上がる⁉️──悪魔のごとき「焦土作戦」

Kakhovka Dam Explosion Will be Devastating to Ukraine for One Main Reason

2023年6月8日(木)18時56分
ブレンダン・コール
死んだ魚たち

干上がった貯水池の底から現れた死んだ魚たち(6月7日) Sergiy Chalyi-REUTERS

<環境を汚染し、飲料水も農地も奪ったダム決壊をウクライナはダム破壊による「焦土作戦」と呼ぶ。それも「焼かれた」のは、昨日まで自国領だと言っていた土地だ>

ウクライナ政府はカホフカ・ダムの決壊で、南部の何万人もの住民が飲料水を利用できなくなると警告した。ウクライナ南部は今後何年も深刻な水不足に陥り、農業生産も大打撃を受けるとの懸念が広がっている。

6月6日、ウクライナ南部ヘルソン州ノバカホフカにあるロシア軍支配下の水力発電ダムが爆破され、住宅地が浸水し多数の住民が避難した。一夜明けた7日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はメッセージアプリ「テレグラム」で、「ロシアのテロリストたち」がウクライナ最大級の貯水池を意図的に破壊したと非難した。

一方、ロシアはウクライナがドニプロ(ドニエプル)川に建設されたダムに破壊工作を行なったと主張、非難合戦が続いている。

米シンクタンク・ジェームズタウン財団のアナリスト、アラ・フルスカによると、カホフカ貯水池の水位は1時間に15センチのペースで低下し続けており、深刻な水不足が予想されるという。

「今後数日様子を見ないと水の動きは読めないが、非常に深刻な影響が出ることは間違いない」

ロシア軍は北クリミア運河の利用を断念

「ヘルソン州の南部とクリミア、特にクリミア半島北部では飲料水が入手できなくなる恐れがある」と、フルスカは述べている。

カホフカ貯水池はウクライナのドニプロペトロウシク州の都市クリビー・リフで使用される水の70%前後を供給しており、市当局は市民に飲料水を貯めておくよう呼びかけた。ミコライウ州とザポリッジャ州、さらに南の地域の水供給にも影響が及ぶ恐れがある。

フルスカによれば、クリミアに駐留するロシア軍も、カホフカ貯水池から取水した水をクリミア半島に供給している「北クリミア運河」がもはや頼りにならないことを認めたという。

2014年のロシアによるクリミア併合で、ウクライナはこの運河経由のクリミアへの給水を制限したが、ロシアは昨年2月のウクライナ侵攻後、カホフカ・ダム周辺地域を支配下に置き、運河を経由してクリミア半島に淡水が豊富に供給されるようにした。

しかし「カホフカ海」と呼ばれるほど広大な貯水池が決壊した今、「クリミアは今後何年も水不足にあえぐことになると、多くの専門家がみている」と、フルスカは言う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中