最新記事

中国

毎年ネットで「三峡ダム決壊!」がバズる理由

MUCH ADO ABOUT THE DAM

2020年10月26日(月)16時25分
高口康太(ジャーナリスト)

中国四川省で洪水により橋が流された後、川をバイクで渡る住民(写真は本文と関係ありません) REUTERS

<三峡ダムはおしまいだ、ダムが決壊すれば共産党もこれまでだ――でも、何も起こらなかった。中国国内・国外それぞれの「バズる」理由がある>

(2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より)

長江沿岸を中心とした広い地域で大雨が降り、今年の中国は歴史的な水害に見舞われた。
20201013issue_cover200.jpg
半ば水没した街など、衝撃的な写真や動画は日本のネットでも注目を集め、「中国には世界最大の三峡ダムがあるのに、なぜこんな洪水に?」「大水害でダムは間もなく決壊するのでは」といった話に広がった。

単なる噂で終わらず、私のところにも「三峡ダム崩壊は大事件では? ぜひ執筆を」という依頼まで届いたほどだ。

せっかくの依頼だが、引き受けなかった。というのも、2009年の完成から10年余り、三峡ダム崩壊論はたびたび耳にしてもう飽きが来ていたからだ。

手抜き工事の影響でダムにひびが入っている、既に設計どおりの強度はない、土砂崩れが頻発し貯水量は減少している......。中国語のSNSでは毎年のようにこうした三峡ダム崩壊論がバズっている。

なかでも盛り上がったのが昨年だ。三峡ダムの堤体がぐにゃりと歪(ゆが)んだ写真が飛び交った(本誌特集の21ページ参照)。

中国のネットでは、三峡ダムはもうおしまいだ、ダムが決壊すれば多くの死人が出て中国共産党の支配もこれまでだと、鬼の首を取ったように騒ぐ人が少なくなかった。

水害被害は大幅に縮小した

本気でダムが決壊寸前だと信じていたというよりも、共産党批判のネタになるなら真偽はどうでもいいという人が多かったように思う。そもそも、さまざまな時事ネタを過大に騒ぎ立てて共産党を批判するのは2010年頃には中国のネットでは主流の「遊び」だった。

この「遊び」はネット検閲が強化されるにつれて下火になるが、ツイッターやYouTubeなど海外のサイトや、香港のゴシップメディア、さらには反中国共産党の法輪功系メディアなどではいまだに定番のネタではある。

海外在住の華人・華僑にはこうしたゴシップを楽しんでいる人は多い。検閲がある中国国内でも、海外のサイトにアクセスしたり、仲間内のグループチャットで回し読みしたりして、ゴシップに接している人は相当数に達するだろう。

そうしたゴシップにはさまざまな種類がある。古くは「劣悪なセメントで造られた中国の高速鉄道は間もなく崩壊する」といった話から、最近では「新型コロナウイルスは武漢市の実験施設から......」というものまで。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中