最新記事
ウクライナ情勢

ダム決壊で遠のいた?ウクライナの反転攻勢と復興への希望

The Worrying Impact of Kakhovka Dam's Destruction

2023年6月7日(水)17時22分
ブレンダン・コール

洪水から逃れるヘルソン市民(6月6日) Vladyslav Musiienko-REUTERS

<洪水被害や原子力発電所への影響だけでなく、ウクライナ軍の反転攻勢も変更を迫られるかもしれない>

ウクライナ南部ヘルソン州のロシア占領地域で、ドニプロ川に設置されたカホフカ水力発電所のダムが破壊された。これは周囲の環境だけでなく、ウクライナ戦争の行方にも影響を与えるだろう。

【マップ】決壊したダムの位置

また、約160キロ上流にあるヨーロッパ最大の原子力発電所への影響も懸念されているが、原子力の専門家は本誌に、直ちに原発に危険が及ぶことはないと語った。

zelenskyofficial.png

ノバ・カホフカの町のそばにあるダムの破壊された部分から水が流れ出す様子を映した映像が出回るなか、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領府は、ロシアの行為は「環境と生態系の破壊」だと非難した。

一方、ロシアが任命したノバ・カホフカのウラジミール・レオンチェフ市長は、ダムを破壊したのはウクライナだと非難している。

ウクライナ当局によれば、ウクライナの支配下にあるドニプロ川右岸では住民が危険にさらされている。数時間のうちに水位が9メートルも上昇した場所もあり、ヘルソン州からの避難者は数万人に上るという。

ダムの決壊でヘルソン州のドニエプル川周辺地域が洪水に見舞われたことで、同地域で予定されているウクライナの反攻計画が困難になる恐れがある。まさにこのために、ロシアは2022年にダムに爆薬を仕掛けたとウクライナは非難している。

反攻を妨げる軍事行動

6日に起きたダム破壊で、ロシアに占領された領土の奪還を目指すウクライナの計画がくるう可能性もある。

「カホフカ・ダムの破壊は、ウクライナの反攻に対する軍事行動だ」と、リトアニアに本拠を置く東欧研究センターのリスクアナリスト、ディオニス・セヌサは言う。

「ロシアは新たな危機を誘発し、ウクライナ政府を危機への対応で忙しくさせて、反転攻勢に集中できないようにしようとしている」

ソーシャルメディアでは、今回のダム破壊を、1941年にソ連軍がナチス・ドイツのウクライナ侵攻を遅らせるためにドニエプル水力発電所ダムを爆破した動きと比較する声があがっている。ウクライナのアントン・ゲラシチェンコ内務省顧問もその説をツイッターで唱えた。

「2023年、カホフカ発電所は、来るべきウクライナの反攻を妨げるためにロシアによって爆破された」と彼はツイートした。「この数十年で最大の技術的大惨事だ」

ウクライナの国営電力会社ウクルドエネルゴは、この発電所は修復不能だと述べた。

ウクライナ大統領府は、ダムの破壊とその余波で、クリミアとザポリージャ原子力発電所(NPP)の両方が脅かされていると述べた。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中