最新記事
医療

睡眠時無呼吸症候群、心疾患の可能性も...「いびき治療」する時代に・最新報告

WHAT TO DO ABOUT SNORING

2023年4月18日(火)09時04分
アマル・オスマン(豪フリンダース大学研究員)、バスチアン・ルシャ(同大学研究員)、ダニー・エカート(同大学教授)
いびき

自分では気付かないうちに家族に迷惑をかけている場合も ANABGD/ISTOCK

<自身や家族の安眠を妨げ、健康や安全も疑われるいびき。持続陽圧呼吸療法(CPAP)だけでなく、スマートウオッチ、マウスガードや外科的治療など選択肢は広がっている>

そうとは知らずに家族やパートナーに迷惑をかけるいびきは厄介な症状だ。いびきは、上気道(鼻の奥から喉にかけての部分)周辺の筋肉や組織が睡眠中に震えることで起こる。いびきは隣に寝る人の安眠を妨げるだけでなく、最も一般的な睡眠時の呼吸障害である睡眠時無呼吸症候群の症状を示している可能性もある。

睡眠時無呼吸を治療しないまま放置すると、健康や安全に深刻な被害を及ぼすかもしれない。肥満や高血圧、脳卒中を引き起こしたり、交通事故や職場での事故を招いたりする可能性もある。

いびきに潜む健康リスクはあまり解明されていないが研究は進められており、心疾患が関係している可能性も指摘されている。だがいびき患者(とそのパートナー)の中には、いびき治療もいびきそのものと同じくらい悲惨なことになるのではと躊躇している人もいる。では、どんな選択肢があるのだろうか。

上気道の周囲の筋肉は、呼吸や嚥下(えんげ)、発話など重要な機能を助けている。これらの筋肉は通常、睡眠中にはあまり活動しない。

人によっては、舌が大きい、あるいは口蓋垂(こうがいすい、のどちんこ)が長いなどの構造的な問題によって、上気道が狭くなっている場合がある。こうした体質の人は、睡眠中に狭い上気道で空気の流れが変わることにより、口蓋垂や周辺組織が震えていびきになる。

同様に、睡眠時無呼吸の場合も睡眠中に上気道が狭くなるが、その程度はただのいびきをかく人々よりも著しい。睡眠時無呼吸症候群の主な特徴は、10秒以上、時には1分以上呼吸が止まる「無呼吸」が見られることだ。

呼吸が妨げられると、血液中の酸素が不足し、しばしば短い覚醒を招く。呼吸が乱れた状態は、一晩中繰り返されることになる。当然ながら、睡眠時無呼吸症候群の患者は起床時に疲労やイライラを感じ、日中も集中力や記憶力の低下が見られることがある。

だが、適切な治療によって睡眠中に上気道を開いておくことができれば、こうした症状は抑えることが可能だ。

睡眠時無呼吸の患者の多くは、この病状に気付いていない。いびきに加えて睡眠不足や日中の眠気があったり、睡眠中の呼吸の異変を指摘されたりしたら、かかりつけ医や専門家に相談し、睡眠検査を受けたほうがいいだろう。

いびきを発生させたり悪化させたりする他の原因もある。花粉症の症状がある人は、気道の炎症によっていびきをかきやすくなるかもしれない。

また、アルコールを飲むと、鼻が詰まったり、気道周辺の筋肉を緩ませることで舌が下がって気道が狭くなったりするために、いびきや睡眠時無呼吸を誘発する可能性がある。

IR23_P86-87_02rsizd.jpg

睡眠時無呼吸症候群は眠気や集中力低下、事故につながることもある PAUL BRADBURY/ISTOCK

睡眠測定デバイスも活用

いびきか睡眠時無呼吸、またはその両方は、血圧の上昇や聴覚系の異常と関連する可能性もあるし、自身だけでなくパートナーの睡眠の質も低下させるかもしれない。極端な場合、いびきの音の大きさはWHO(世界保健機関)の騒音に関するガイドラインすら上回ることもあり得る。

単なるいびきが健康被害につながる証拠は今のところ明らかになっていないため、通常は治療を勧められることはない。だが、いびきや睡眠時無呼吸の対処法は複数ある。

まず、持続陽圧呼吸療法(CPAP)は睡眠時無呼吸症候群の最も重要な治療法だ。鼻、あるいは鼻と口を覆う特殊なマスクを装着して圧力を加えた空気を送り続け、上気道を開いた状態に保つ。最新モデルは操作音が静かなものも多く、継続して使えば呼吸や関連の症状が改善する。

とはいえ、CPAPへの抵抗感や個人的事情で、他の治療を選択する人も多い。

その1つがマウスガードだ。下あごが前に突き出るように作られており、口が開いたりあごが後退したりするのを防いで、気道の安定を確保する。

その他、気道を広げる外科手術や、体重を減らして気道を圧迫する脂肪組織を減らす、あるいはもっと簡単に横向きで寝る、などの方法もある。

舌下神経電気刺激装置を外科手術で埋め込み、睡眠中に舌の筋肉をコントロールして手前に動かすという最新鋭の手法も導入されている。

睡眠時無呼吸を治療するために筋肉の働きを改善する方法や上気道の安定性を保つ治療法については、複数の研究・調査が行われている。

また、発話で舌をトレーニングすることで上気道周辺の筋肉を強化し、いびきや睡眠時無呼吸を改善するという治療法に効果を見せる人もいる。

睡眠時無呼吸症候群に対する治療は、個別化が進んでいる。技術的な手助けになるツールも登場している。

スマートウオッチの中には、睡眠状況や血中酸素濃度をモニタリングできるものも。就寝時にシートセンサーを敷いて、睡眠時無呼吸やいびきの頻度などを測定することもできるし、いびきを録音できるアプリも複数ある。こうした体に負担をかけない測定デバイスは、睡眠状態の変化をモニタリングするのに役立つだろう。

自分が睡眠時無呼吸症候群ではないかと思ったら、あるいは既にそう診断されているとしたら、かかりつけ医や専門家の診察を受けるべきだ。さまざまな治療の選択肢の中から、自分に合ったものを相談するといいだろう。

The Conversation

Amal Osman, Research Fellow - College of Medicine and Public Health, Flinders University; Bastien Lechat, Postdoctoral research associate, Flinders University, and Danny Eckert, Director, Adelaide Institute for Sleep Health, Professor, College of Medicine and Public Health, Flinders University, Flinders University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米イラン攻撃、国際法でどのような評価あるか検討必要

ワールド

ウクライナ首都と周辺に夜間攻撃、8人死亡・多数負傷

ワールド

イスラエル、イラン首都に大規模攻撃 政治犯収容刑務

ワールド

ゼレンスキー大統領、英国に到着 防衛など協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中