最新記事
日本再発見

「人生観が変わった」太宰治がアメリカで人気...TikTokで知った若者が『人間失格』に夢中

2023年3月24日(金)19時30分
青葉やまと

『人間失格』は、「No Longer Human」と訳されている......。 @andtherezmary-Youtube

<海外のTikTokで、70年以上前の太宰治作品が話題に。実際に読み感銘を受けたという若いユーザーが続出している>

アメリカの若者たちのあいだで、太宰治が遺した文学作品がブームとなっている。火付け役はTikTokだ。

ニューヨーク・タイムズ紙は3月5日、「太宰治がTikTokの力を借り、新たなファンを獲得し続けている」との記事を掲載した。動画で知った太宰作品を実際に読んで衝撃を受け、「人生観が変わった」というユーザーが続出しているという。

あるTikTokユーザーは、読み終えたばかりの『人間失格』のペーパーバック本の動画をTikTokに投稿し、「とても悲しい」と読後感を語っている。本の随所に貼られた付箋は「共感できること」や「名言やあとで考えたいこと」などに色分けされており、相当に入れ込んでいる様子が伝わる。

記事によるとTikTokでは、悲壮感漂うBGMに乗せて太宰作品を紹介する動画が増えているという。同紙は「こうした動画のコメント欄には若い人々が溢れ、この本に夢中だと宣言し、同作がものの見方を変えたと絶賛し、あるいは母に買ってくるよう頼んだので来たらすぐ読みたいと興奮気味に語っている」と報じている。

読書ブームに沸くTikTokで、75年前の太宰作品にスポットライト

ネットでの流行を受け、太宰作品は実店舗でも大きく扱われるようになった。大手書籍チェーンの米ブックス・ア・ミリオンは店舗で平積みし、老舗出版社のニュー・ダイレクションズは75年も前に刊行された太宰作品の増版や新訳版の製作に追われている。

少し前から海外では、「#BookTok」が人気のタグとなっている。読書に興じている日常のワンシーンや、おすすめの小説などを紹介する動画が視聴者の興味を惹いてきた。読書離れが叫ばれる現在、出版界や書店の希望の光となっている。太宰作品もこの#BookTokの流れにうまく乗ったようだ。

なかでも読まれている代表格が、1948年出版の『人間失格』だ。主人公とされる大庭葉蔵は、人前では努めて明るい人間を演じながらも、内面では自身の犯した過ちへの悔いが消えない。同作は、そうして心に迷いを抱え、自身に人間失格の烙印を押す男の生き様を描く。英題は『No Longer Human(もはや人間ではない)』と衝撃的だ。日本での初版から10年を経て、1958年に英訳版が出版された。

人生への悲観的な視線が、現代の若者の琴線に触れたようだ。TikTokでは「私は太宰治に書かれた」というジョークが流行し、自身の悲劇的な人生を語る自虐表現としてよく見られるようになった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ抑制へ当面の金利据え置き必要=米ダラス連銀

ビジネス

グーグル、水力発電の電力購入契約 30億ドル

ビジネス

日経平均は小幅続伸で寄り付く、米半導体株高が支え 

ビジネス

英財務相、金融業界の規則緩和さらに推進へ 「成長を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 7
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 8
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中