最新記事
シリア

シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在......トルコ・シリア地震発生から3週間

2023年3月6日(月)14時40分
青山弘之(東京外国語大学教授)

支配者としてのテロリスト

シリア北西部への支援の遅れは、一義的にはテロリストが同地の事実上の支配者であることが原因である。そのテロ組織とは、「シリアのアル=カーイダ」として知られ、シリア政府やロシアだけでなく、国連、米国、そしてトルコも国際テロ組織に指定しているシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)である。

バーブ・ハワー国境通行所に加えて、シリア政府と「解放区」の境界地帯や、シリア政府側が人道回廊と銘打ってこれまで度々開放を宣言してきたタルナバ村(イドリブ県)やアブー・ザンディーン村(アレッポ県)の通行所、トルコ占領下の「オリーブの枝」地域の境界地帯と、同地に設置されているアティマ村(イドリブ県)の通行所を管理しているのは、このシャーム解放機構である。

シャーム解放機構、そしてこれを支持するシリア国内外の活動家らが、シリア政府や北・東シリア自治局からの支援を拒み、住民を人質にとるかたちで、国際社会、アラブ・イスラーム世界に直接支援を呼びかけ続けることが、支援物資を届ける選択肢を狭めていると言っても過言ではない。

「解放区」をいち早く視察したジャウラーニー

それだけではない。地震の混乱に乗じるかのように、シャーム解放機構は、「解放区」の為政者としての存在を誇示し、支配地域を拡大しようとさえしている。

シャーム解放機構指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニーは、地震発生の翌日にあたる2月7日と8日、「解放区」においてもっとも被害が激しかったとされるハーリム市とサラーキブ市(いずれもイドリブ県)などを訪れ、被害状況を視察した。

aoyama20230306c.jpg

サルキーン市を視察するジャウラーニー(Enab Baladi、2023年2月25日)

ジャウラーニーはまた、2月8日にシャーム解放機構傘下のアムジャード映像制作機構を通じてビデオ声明を発表し、以下のように述べてイスラーム世界に向かって被災者の救援に参加するよう呼びかけた。


(シャーム解放機構が地震発生直後に発足させた)緊急時対応委員会は、ボランティア・チームの活動、民衆のイニシアチブ、寄付キャンペーンの組織化に取り組み、民間防衛チーム(ホワイト・ヘルメット)の活動を促した。

軍事部門、総合治安機構は、瓦礫の撤去に取り組み、民生チームの活動を促した。それ以外の機関も、我々の不屈の解放区において躊躇することはなかった。我々は彼ら全員に謝意を向けたい。

我らが解放区を破壊した地震によってもたらされた被害は、公式統計によると、現在、死者が約2,000人、負傷者が5,000人、住宅572棟が全壊、4,000棟が半壊した。被害は56の町に及び、これによって3万以上の世帯が被災している。さらに数千の家族が瓦礫の下に閉じ込められ、消息不明となっている。

現在も瓦礫の下敷きになっている人が数千人おり、彼らを救い出せる機会は毎分失われている。

aoyama20230306d.jpg

ジャウラーニーのビデオ声明(Amjaad、2023年2月8日)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中