「罪悪感はない」...あなたの日常にも、実は大きく影響している「地下経済」に生きる人々
I Look Into Dark Corners
メディアには不都合で不人気な情報
ある有力プロデューサーによれば、「敵の言い分を放映する」ことが受け入れられる政治環境ではないと上層部が感じているとのことだった。
その後のジャーナリストとしての活動では、一貫したテーマを持って取材していたわけではなかったが、気が付くと地下経済の世界に足を踏み入れることが多かった。
04年には、ブラジルのアマゾン川流域の先住民居住地区で起きた大量殺人を取材した。これは、ダイヤモンドの違法取引をめぐり先住民と密売業者が対立した結果として起きた事件だった。
05年には、メキシコから国境を越えてアメリカへ密入国しようとする中米の人々を取材した。私も不法移民たちと一緒に、疾走する貨物列車の屋根にしがみついたものだ。
その数年後には、鎮痛剤の違法製造の実態を取材した。この問題はやがていっそう規模が拡大し、「オピオイド(鎮痛剤)危機」と呼ばれるようになった。
私はこうしたテーマに共通する要素があることに気付いた。世界には正規の経済から締め出された結果、違法な地下経済の世界で生計を立てなくてはならない人が大勢いる、ということだ。
地下経済は私たちの日々の暮らしに極めて大きな影響を及ぼしているが、数値データを集めることが難しく、実態はよく分かっていない。そうした世界で生きる人たちの実情もあまり知られていない。
トゥイーティは20代のジャマイカ人女性。昼は高級リゾートホテルで働いている。1カ月の給料は、宿泊客たちが1晩で使う程度の金額だ。トゥイーティは、2900ドルの手術費を支払えずに祖父が死亡した後、家族のためにお金を儲けたいと強く思った。
そこで、アメリカ人相手に詐欺を始めた。「あなたはくじに当たりました。賞金を受け取るためには、まずお金を支払う必要があります」と述べ、お金をだまし取るのだ。
罪悪感はないと、トゥイーティは語った。ジャマイカで話を聞いたほかの詐欺師たちの多くも、これは何世紀にもわたるアメリカ人の搾取に対する「賠償金」だという趣旨のことを述べていた。
地下経済の世界で生きる人たちは「悪党」「犯罪者」と位置付けられることが多いが、20年近くの取材を通じて分かってきたのは、この人たちも子を持つ親であり、誰かの息子や娘だということだ。家族を深く愛し、身を粉にして働いている。そして、家族のために過酷な選択をせざるを得なくなっているのだ。
私が昔シリアで収録したリポートと同じように、こうした地下経済の現実を伝えるリポートは、不都合で不人気かもしれない。しかし現実を無視すれば、それが消えてなくなるわけではない。
世界の暗い片隅から目を背けるのではなく、しっかり向き合うべきだと、私は思っている。

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