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あの北朝鮮軍も「規律の緩み」に危機感...「将校9割が命令無視」の異常事態とは?

北朝鮮兵士

北朝鮮兵士(2018年9月) Danish Siddiqui-Reuters

<朝鮮人民軍といえば上層部の命令には絶対服従のイメージだが、最近では命令がまともに守られないケースも少なくないという>

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は現在、冬季訓練を行っている。例年12月1日から翌年の3月末までの長期にわたり行われる訓練だが、その真っ只中の1月に「軍紀確立評価の月」という、検閲(検査)を行った。過去にはなかった異例のことだ。

デイリーNKの軍内部情報筋によると、朝鮮人民軍総参謀部は、軍紀が乱れていないか実態を把握するための調査を各部隊に対して抜き打ちで行った。その背景には、冬季訓練に臨む将兵の態度の問題があるというのが情報筋の説明だ。

「新年は訓練場で迎えよ」という命令が下されたにもかかわらず、それがまともに守られなかったのだという。

「先月28日午後、総参謀部が国防省検収局、水路局指揮部直属の区分隊の訓練場に対して緊急検閲(抜き打ち検査)を行ったところ、軍官(将校)、下戦士(二等兵)の9割が軍服ではなく、製作軍服(私服)を着用していたことが深刻な問題となった」(情報筋)

なお、この区分隊に対しては、1月の総合訓練評価で最低点が付けられてしまった。

国内の状況が苦しいときほど引き締めを図るのが北朝鮮である。民間人の若者のヘアスタイル、ファッション、さらには言葉遣いまで「非社会主義現象」、「南朝鮮(韓国)資本主義遊び人風」などと称して、取り締まりを行っている。

(参考記事:引き出された300人...北朝鮮「令嬢処刑」の衝撃場面

若い将兵の間でも同様の現象が起きている。勤務中の韓流ドラマを見たり、韓国風のダンスを踊ったりして摘発した事例が確認されているが、私服を着ておしゃれを楽しむなど、北朝鮮の考える理想の軍人像からは遠くかけ離れた、軍紀紊乱行為であるということだ。

(参考記事:北朝鮮軍の20代兵士「不純録画物」巡り暴行死の悲劇

私服に対する総参謀部の抜き打ち検査が行われ、部隊周辺の市場では、密売されている正規の軍服の価格が高騰している。下戦士の軍服の場合、1着がコメ7キロから10キロ分で買えたのが、現在では20キロにまで上がったという。

「質が悪くとも全く手を加えていない規定に沿った軍服を買い求める下戦士が急増し、(平壌市郊外の兄弟山<ヒョンジェサン>区域の)西浦(ソポ)市場、(西城<ソソン>区域の)下新(ハシン)市場では、規定の軍服の値段が2倍に上がった」(情報筋)

とりあえず検閲を問題なくやり過ごそうということだろうが、上から押し付けられるものを「ダサい」と嫌がるのが今の北朝鮮の若者の風潮だ。ほとぼりが冷めれば、またおしゃれを楽しむようになるだろう。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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