最新記事

中国

「21世紀末には人口は約半分」──中国共産党に落とされる人口減という「大爆弾」

A Shrinking China

2023年1月24日(火)12時01分
王豊(ワン・フォン、カリフォルニア大学アーバイン校社会学教授)
一人っ子政策

35年にわたる一人っ子政策で中国の人口動態は著しくいびつになった TINGSHU WANGーREUTERS

<約60年ぶりに総人口が減少に転じたことを発表した中国政府。「労働集約型の成長モデル」を維持できないことが判明した今、一党独裁の正当性が揺らぎかねない>

中国社会が縮んでいる。有史以来、人口においては世界一の座を(ほぼ)維持してきた中国に、重大な転機がやって来た。

中国政府が1月17日に発表した人口統計によると、2022年は死亡者数が出生数を上回り、約60年ぶりに総人口が減少に転じた。これにより世界最大の人口国という地位は、今年中にインドに譲ることになるという。

かなり以前から予想されてきたこととはいえ、中国の人口動態を研究してきた学者として、これが些細なニュースでないことは、筆者にもよく分かる。

前回、中国の総人口が前年を下回ったのは1961年のこと。工業と農業の飛躍的発展を図った大躍進政策が失敗して、推定3000万人が餓死したのが原因だ。

これは右肩上がりの人口増が止まった異例の年だったが、2022年は違う。右肩下がりの人口減という長期的なトレンドの始まりになることが、ほぼ確実なのだ。

国連によると、21世紀末には中国の人口は現在よりも約45%減るという。だがそれは、現在の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)約1.3を維持すればの話。少子化がもっと進めば、人口減はより大きくなる。

それは中国の人口統計学者が、かねてから懸念してきたもう1つのトレンド、すなわち社会の急速な高齢化に拍車をかけるだろう。中国では、2040年までに65歳以上の高齢者が総人口の約22%を占めるようになるとみられているのだ。

つまり、現在の中国では地殻変動的な大転換が起きており、それは3つの重要領域で、象徴的な意味でも、現実的な意味でも、巨大なインパクトを与えるだろう。

第1の重要領域は経済だ。中国経済はこの40年で、農業中心から製造業とサービス業を中心とする経済へと画期的な転換を成し遂げてきた。それにより人々の生活水準と所得水準も著しく上昇した。

だが、労働集約型の成長モデルは、いずれ維持できなくなると、中国政府はかなり前から気付いていた。中国の製造業を支えてきた安い労働力は、ロボットなどの技術革新で不要になったり、ベトナムなど労働力がもっと安い国との競争に勝てないからだ。

一人っ子政策のツケ

人口動態における歴史的な転換は、中国政府にとって、ポスト製造業あるいはポスト工業経済の成長モデルへの移行を一段と急ぐべき理由となっている。少子高齢化社会では、労働集約型の成長モデルを維持できないからだ。

これは中国政府にとって、短期的にも、長期的にも難題となるだろう。なにしろ今後、経済を動かし、さらなる成長を刺激するために必要な若者は減る一方で、仕事を引退する高齢者と、彼らを支えるコストは増え続けるからだ。

恐らく、中国にとって2022年が人口動態の転機となったと同時に、経済成長が1976年以来で最悪の水準となったのは、偶然ではないのだろう。

人口動態の変化は、中国社会にも大きな影響を与えるだろう。1979年から約35年間続いた産児抑制策「一人っ子政策」により、多くの高齢者には子供が1人しかいない。

あまりに多くの高齢者を少ない子供たちが支えていくことは、経済的にも社会的にも大きな負担となるだろう。しかも長寿化により、こうした支援が必要な期間は長くなる。

当然、その子供たちが直接的に担う重荷は大きくなる。働き盛りの夫婦は仕事をこなすと同時に、子供たちを育てて、高齢の親の支援もしなくてはいけないのだ。

その負担を軽減するためには、政府が高齢者に適切な医療や年金を給付することが不可欠だ。しかし、長い年月をかけて社会のセーフティーネットを整備してきた欧米諸国とは異なり、中国政府は人口動態と経済状況の変化についていくので精いっぱいだった。

異次元のインパクトが

2000年以降の経済成長を受け、中国政府は学校や病院の拡充に莫大な投資をしてきた。だが人口動態のシフトはあまりにも急で、セーフティーネットの整備はそれに追い付いていない。

中国の医療システムは依然として極めて非効率で、不平等で、拡大するニーズに対応できていない。

また、中国の年金制度は地方や企業などによって複雑に細分化されており、加入者にとっては不公平感も強い。

中国の人口が減少に転じたことは、政治面でも大きな影響を与えるだろう。人々の期待に沿う対策を講じることができなければ、中国共産党の支配を揺るがす事態にもなりかねない。一党独裁の正当性は、人々の暮らしを豊かにすることと引き換えに認められてきたからだ。

それだけに、人口減少が経済の衰退につながれば、党には大打撃となるに違いない。少子高齢化社会をサポートする仕組みを党がきちんと整備できるかどうかも、人々は厳しい目で見ている。

現時点では、中国政府の対応は後手に回ってきたという印象が否めない。出生率があまりにも低いため、現在の人口を維持できないことは、1990年代から分かっていたのに、政府が全ての夫婦に2人目の出産を認めたのは2016年、3人目を認めたのはようやく21年のことだ。

人口増を刺激する(少なくとも人口減少のペースを落とす)ために取られたこの政策転換は、遅きに失した。そして中国は間もなく人口で世界一の国という地位を失おうとしている。

だが、人口減少が中国の経済と政治に与えるインパクトはそれとはまた別次元のものになるだろう。

The Conversation

Feng Wang, Professor of Sociology, University of California, Irvine

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 習近平独裁の未来
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月17号(2月10日発売)は「習近平独裁の未来」特集。軍ナンバー2の粛清劇は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」強化の始まりか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

非常戒厳時の韓国前行政相に禁固7年、内乱加担と偽証

ビジネス

インタビュー:日銀、早ければ3月利上げ 年3回も可

ビジネス

日経平均は4日ぶり小反落、一時初の5万8000円 

ビジネス

ソフトバンクG、25年4―12月純利益5倍 AIブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中