最新記事

ウクライナ戦争

ワグネルの囚人戦闘員5分の1に激減。「遺族」には空の棺が

Most of Wagner Prisoner Fighters Are Dead or Deserted After Soledar: Report

2023年1月26日(木)14時58分
ニック・モドワネック

サンディエゴ州立大学のミハイル・アレクセーエフ教授(政治学)は、ワグネルにとって刑務所は、新兵の供給源のひとつに過ぎないと本誌に語った。

過去1カ月間のロシアメディアの報道から、ワグネルの募集広告が戦闘員候補だけでなく、医療関係者、運転手、雑用係もターゲットにしていることをアレクセーエフは指摘した。

同時に、ベラルーシを拠点とするウクライナ系メディアは、軍の地方組織が、地域のガードサービス・グループの訓練を強化していることを報じている。ガードサービスはワグネルを模倣した類似の会社で、警備員などの募集・採用活動を行っている。

「アゾフ海を挟んでウクライナ東部と向かい合うクラスノダール地方やその他ロシア各地には以前からワグネルの訓練センターがあり、新兵の訓練を続けている」とアレクセーエフは言う。「こうした取り組みが、ワグネルの勢力範囲と軍との協力関係が拡大する一因になっている可能性もある」

元受刑者や傭兵で構成されるワグネルの苦戦を伝える報道に加えて最近は、宣伝ほどの戦果がないためプリゴジンとプーチンの間には緊張が生じているという報道も出てきている。

プーチンとの複雑な関係

アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は、ウクライナ東部ドネツク地方の要衝バフムトを占領するというプリゴジンの約束は果たされておらず、彼の「輝きは失なわれ始めた」としている。

さらに「プリゴジンの強気の発言は勢いで戦争をするカウボーイのようだ。大規模で規律と実戦能力を重んじる近代的軍隊には適しない」と評価を下した。

米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は20日の記者会見で、ワグネルを「国際的犯罪組織」に指定したが、いわば傭兵団のトップに過ぎないプリゴジンは米政府に直接反論を試みた。英語とロシア語で、「わが社がどのような罪を犯したのか、明確にしてほしい」と手紙を書き、それを自身のテレグラム・チャンネルで公開したのだ。

だがプーチンとプリゴジンの実際の関係は、報道よりずっと複雑だ、とアレクセーエフはいう。

「ワグネルとロシア軍、そしてより広くはロシア国家の連携が遅巻きながら機能し始めている。ワグネルの戦闘員の一部がロシア軍部隊と共にバフムトからソレダールへ移動した動きなどはその例だ。ワグネルがロシア軍の戦力を増幅する役目を果たしている」と彼は語った。

「プーチンは、ロシア軍とプリゴジンを強力なアメとムチで操り、こうした相乗効果を強化したいのだろう」

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中