最新記事

銃規制

ブラジル、銃規制強化に「暗雲」 暴力で抵抗するボルソナロ支持者たち

2022年12月18日(日)10時55分
道路を封鎖する警官たち

ルラ次期大統領が直面する最も厄介な課題の1つが、10月23日に起きた事件に象徴されている。写真は同日、ロベルト・ジェフェルソン氏の自宅近くで同氏の支持者が抗議活動を行う中、道路を封鎖する警官ら。コメンダドール・レビー・ガスパリアンで撮影(2022年 ロイター/Ricardo Moraes)

ジャイル・ボルソナロ大統領の盟友として知られるベテラン政治家、ロベルト・ジェフェルソン氏は、自分を逮捕するために訪れた4人の連邦警察官に向かって、「自分はどこにも行かない」と言い放った。

「逃げたまえ」とジェフェルソン氏は言った。「さもないと痛い目に遭う」

ジェフェルソン元連邦議員と、逮捕に向かった警察官らの証言によれば、同氏は警察官らに粗悪な音響閃光弾(スタングレネード)を3個投じ、警察の装甲車にスミス・アンド・ウェッソン製アサルトライフル(自動小銃)で5.56ミリ弾を50発以上浴びせた。破片で負傷した警察官2人が入院し、8時間にわたるにらみ合いの末、同氏はようやく投降した。

この派手な銃撃戦は、大統領再選を目指すボルソナロ氏が決選投票に敗れる1週間前、10月23日に発生した。対立候補の左派ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ氏が直面する最も厄介な課題の1つが、この事件に象徴されている。ルラ次期大統領は、銃器所持が広がる一方のブラジルを「非武装化」すると公約している。この国では、個人用の銃器が、ボルソナロ氏を支持する保守陣営のシンボルになっているのだ。

国民の4分の3は銃規制緩和に反対した

ルラ氏の政権移行チームに非公式に助言を行っているソウ・ダ・パス研究所のブルーノ・ランジーニ氏は、「ロベルト・ジェフェルソン事件からは、市民が殺傷力の高い銃を所持することの危険性が分かる。警察官だけでなく、社会全体が危険にさらされる」と語る。

ロイターは、来年1月1日に大統領に就任するルラ氏の政権移行チームに参加している、あるいは助言を行っている8人の関係者に取材し、銃規制の強化について話を聞いた。計画はまだ確定ではないが、銃規制の緩和に向けてボルソナロ氏が署名した多くの大統領令が銃保有の急増を招いたとして、これらを廃止したい考えだという。

調査会社ダッタフォリャが5月に実施した世論調査では、ブラジル国民の4分の3近くは、ボルソナロ政権による銃規制緩和に反対していた。

関係者らは、優先課題は、ジェフェルソン氏が使ったライフルのような一部の殺傷力の高い銃について一般市民による所持の禁止を復活させることだと話した。

また、銃砲所持許可の新規取得を難しくし、既存の許可の更新についても費用を引き上げ、手続きを複雑にする計画もある。さらに政権移行チームは、軍・連邦警察が運用している不透明なデータベースを合理化する方法も模索しているという。

ここまでは、そう難しい話ではない。

だが、シンクタンクのイガラペ研究所、前出のソウ・ダ・パス研究所によれば、ブラジルでは現在すでに民間所有の銃器が約190万丁も登録されている。ボルソナロ氏が大統領に当選した2018年には約69万5000丁にすぎなかった。政権移行チームに参加する弁護士ガブリエル・サンパイオ氏は、こうして蓄積された膨大な銃器をできるだけ削減するには「困難が伴う」と語る。銃器の多くを保有するのは、ルラ氏を嫌悪し、その当選に異議を唱える、絶対的なボルソナロ支持者なのだ。

2003─2010年、つまり暴力犯罪対策として広範な銃規制法を成立させた前回のルラ政権時代に比べて、政治状況は一変した。当時は任意提出による買い取りスキームなどの措置により、約65万丁の銃器が流通過程から回収された。

ルラ氏の政権移行チームの関係者によれば、チームでは現在、強制的な買い取り制度により一般市民が保有するアサルトライフルを回収し治安部隊に配布することを検討しているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中