最新記事

台湾半導体

半導体帝国・台湾が崩壊しかねない水不足とアメリカ台頭、隙を狙う中国

SILICON SHIELD GOING DOWN?

2022年12月14日(水)17時03分
フレデリック・ケルター(ジャーナリスト)


NW_HDH_03-20221214.jpg

昨年12月、全民防衛動員署の設立式に出席した台湾の蔡英文総統


必要なのは、膨大な量のエネルギーだ。「今の成長軌道が続けば、台湾の電力量にTSMCの使用量が占める割合は2030年までに10%に達する見込みだ」と、蔡は言う。

一方で、同社は顧客企業のアップルなどの圧力を受け、再生可能エネルギーへの転換を迫られている。50年までのネット・ゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)達成を目標に掲げるが、台湾では再生可能エネルギーは希少。今年、各種の発電方法を組み合わせた「エネルギーミックス」に占める割合はわずか8%だ。

そのためTSMCは中央・地方レベルで、再生可能エネルギー事業を迅速化する動きの牽引役になっている。蔡に言わせれば、おかげで台湾の化石燃料依存からの脱却が進んでいるものの、懸念もある。

「プロジェクトを早期承認するよう、TSMCは当局者に強い圧力をかけている。そのせいで、計画中の風力発電所や太陽光発電所が近隣住民、および環境に悪影響を与えないかどうかを確かめるデュー・デリジェンス(適正評価)手続きが妨げられている恐れがある」

言い換えれば、TSMCの電力需要は、住民や環境への負荷を上回る速度で台湾のエネルギー拡大を推し進めるリスクを冒している。さらに悪いことに、TSMCには大量の水も欠かせない。

半導体の製造過程では、膨大な量の水が必要になる。マイクロチップ需要が急増した15~19年に、TSMCの水使用量は70%上昇。台湾の3カ所にある工業団地での合計使用量は、1日当たり15万6000トン超に達した。これは、オリンピックサイズの水泳プール60面を十分満たせるほどの水量だ。

大量の水使用と進む乾燥化

20年には、台湾北西部の新竹サイエンスパークで進める事業活動の拡大によって、同パーク全体の水使用量のうち、TSMCの占める割合が40%から85%に膨れ上がることになった。

台湾第3の都市、高雄で新たに建設が承認されたTSMCのマイクロチップ工場は、同市の水供給量の7%を消費する見込みだ。半導体産業は水資源の再生利用・再使用を進めている。だが、その取り組みは需要に追い付いていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 10
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中