最新記事

宗教2世

「病院に行かせてくれない」「祈れば治ると言われる」──宗教2世が体験した医療ネグレクトの数々

2022年12月9日(金)11時50分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

医療的効能の表示をすることについては、一般的には薬機法(旧薬事法)に基づく厳格な解釈がなされている。しかし、宗教や呪術に関しては、厳密に適用されているとは言い難い。

呪術的な民間療法は、それ自体に有害なものもあれば、無害に思えるものもある。しかしそれでも、「現代医療を受ける機会を奪う」という、間接的な有害さを常に持ちうるものでもある。

また宗教的声がけの中には、怪我、病気、障害を「悪いこと」として位置付けた上で、信仰心が不足したゆえのペナルティなのだと説明するものも少なくない。このような声がけは、病気などになった個人に対して、罪悪感や自責感などのネガティブな感情を植え付けるという、精神的健康にとって有害なものにもなりうる。

怪我や病気を心配されるどころか、信仰不足を責められること。医療行為を与えられないこと。それに異論を唱えれば、親から拒絶されるかもしれないと怯えざるをえないこと。病気などの苦難を口実として、信仰への誘導を行うことは、2世である子供にとって何重もの苦痛となるだろう。

そうした経験は、病気や障害などを、「自己責任」と位置付ける信念を強化してしまうかもしれない。また以前、別の記事でも触れたように、時には障害や病気を持つ人に対する見下し感情や、「優生思想」を持つことも懸念される。

根深いのは、医療行為をタブー視する感受性が、大人になっても残ってしまう2世が少なからずいる点だ。「病院に行くことに罪悪感を抱く」という2世は、決して珍しいわけではない。そのことが、時には「病気になっても、病院に行かない」といったセルフネグレクトにつながる可能性さえある。

有害な宗教教義や宗教的声がけは、脱会した2世の「その後の価値観」にも大きな影響を与える点も決して軽視してはならない。むしろ医療側からもまた、医療忌避を植え付けられて苦しんでいる2世当事者らに対して、精神的ケアを提供できるような体制づくりも必要となってくるだろう。

こうした論点は、まだまだ国会でも向き合いきれていないのが現状だ。2023年の国会では、「医療ネグレクト対策」「2世らへの医療サポートの拡充」についてもまた、真正面から議論してほしい。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月7号(3月31日発売)は「日本企業に迫る サステナビリティ新基準」特集。国際基準の情報開示や多様な認証制度――本当の「持続可能性」が問われる時代へ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア3月インフレ率、目標圏内に低下 イラン

ビジネス

アイリスオーヤマ、ライフドリンクC株を連日買い増し

ビジネス

中東情勢、5月までに終結なら影響限定 年末株価6万

ビジネス

アドテスト、ユーロ円建てCB1000億円 半導体検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中