「誰かが責任を取るしかない...」梨泰院事故の「容疑者」探しが進む韓国

2022年11月9日(水)12時40分
佐々木和義

ソウル梨泰院で発生した事故の坂の上から 撮影:佐々木和義

<韓国・ソウル梨泰院の雑踏事故から10日。大統領室は「誰かが責任を取るしかない」と話すなど「容疑者」探しが進んでいる......>

ソウル梨泰院で発生した事故に関連し、野党・共に民主党は「尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領退陣要求集会」への対応で機動隊の出動が遅れたとして尹政権を批判する。

一方、与党・国民の力の支持者は文在寅前政権の警備責任者の任命責任を追求する。また、ハロウィンに責任を転嫁する声や被害者自身の責任という声もある。

警備責任者だった李林宰(イ・イムジェ)龍山警察署長は事実上の更迭となり、韓悳洙(ハン・ドクス)首相が「責任を厳重に問う」と述べて大統領室が「誰かが責任を取るしかない」と話すなど事故から10日経った韓国で「容疑者」探しが進んでいる。

予測はできた梨泰院のハロウィンの人出

2022年10月29日夜、ソウルの繁華街、龍山(ヨンサン)区梨泰院で雑踏事故が発生し、11月4日までに日本人2人など14か国の外国人26人を含む156人の死亡が確認された。

事故は梨泰院のメイン通りと世界飲食文化通りを結ぶ幅3.2メートルの狭い路地で発生した。世界飲食文化通りが人で溢れ、身動きが取れなくなった人々が狭い路地に抜け出して、地下鉄梨泰院駅から路地に入った人たちとぶつかりあった。坂で滑って転倒した人に気づかず重なり合ったという。

梨泰院駅の利用者は1日平均3万5千人ほどだが、ソウル交通公社によると同日の利用者は13万131人で、前日の5万9995人や土曜日とハロウィンが重なった前年の5万9609人と比べて2倍以上も多かった。

警察や区庁が一方通行の措置を取るなど歩行者の動線を統制していたら事故を防ぐことができたという指摘がある。梨泰院では同月15日と16日に「地球村祭り」が行われ、主催者発表で100万人が参加した。主催した龍山区が道路の統制や安全フェンスの設置など安全管理を行った。

韓国ではデモや集会、大規模行事など警察への事前届出が義務付けられており、警察は規模に合わせて機動隊を配置する。ハロウィンは主催者がいないため対策を講じることが難しかったと区庁や警察は釈明するが、外国人街として知られる梨泰院のハロウィンははじめてではない。ましてコロナ禍の制限が解除されて以降、はじめてのハロウィンだ。10万人の人出は想定外だったとしてもある程度は予測できただろう。

警察署は、尹大統領の退陣を求める集会の管理にあたっていた

事故発生前、日本の110番に相当する112番に現場付近から11件の通報があったが、うち7件で警察が出動せず、同日午後7時34分に現場で警備を指揮していた警官が機動隊の出動を要請したが、機動隊が到着したのは午後9時30分頃で、すでに車道と歩道を埋め尽くす車両と人で規制が難しくなっていたという。

事故発生直後に現場から200メートルの至近距離にある消防署から救急隊が出動したが、到着までに6分かかり、病院への移送も身動きが取れない状況だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中