最新記事

インドネシア

G20首脳会合、注目は全体会議より米中などの個別会談 プーチンは出席見送りか

2022年11月8日(火)13時11分
大塚智彦

インドネシアのウルトラCは瓦解

ジョコ・ウィドド大統領は11月2日にプーチン大統領と電話会談したが、プーチン大統領はG20参加の意向は明確にしなかったという。

このため現時点ではプーチン大統領の参加はかなり難しいとの見方が有力となっている。

バイデン大統領は、もしプーチン大統領が出席した場合は二国間会談どころか立ち話しにも応じることはなく、各国首脳による集団での記念写真撮影でも一緒になることはない、との強硬な姿勢を示している。

もしプーチン大統領が参加した場合、ウクライナへの軍事侵攻をめぐり中国やインドなどを除く各国から非難されることは必至であり、参加のメリットは少ないと判断しているとみられる。

ジョコ・ウィドド大統領は6月末からウクライナとロシアを訪問してゼレンスキー大統領、プーチン大統領の双方にG20への参加を要請した。

ジョコ・ウィドド大統領としては、あわよくばG20首脳会合で戦争当事者である両国首脳の初顔合わせという「ウルトラC」で和平に向けた直接会談を密かに狙っていた。

だが、外務当局などからは「実現はほぼ不可能」との観測が寄せられ、せめてプーチン大統領のG20出席とゼレンスキー大統領のオンライン参加という「帳尻合わせ」で国際社会に成果をアピールという考えに後退したとされている。

ただ現状ではプーチン大統領は不参加の見通しに加えて、ゼレンスキー大統領のオンライン参加でメンバー国のコンセンサスが得られるかどうかは不確定な状況となっている。

バリ島が単なる場所貸しになる可能性も

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領、外務省はG20首脳会合で「コロナウイルスなどの感染症対策」「持続可能な環境対策」「ドル高による世界経済への影響」「ロシアのウクライナ軍事侵攻にともなう世界的食料危機問題」「北朝鮮のミサイル、核問題」「ロシアの軍事侵攻などの安全保障問題」など幅広い課題を討議することで首脳会合の成功を内外にアピールすることに苦心している。

バリ島では環境保護の観点から参加首脳のマングローブ地帯訪問や各国首脳や参加関係者に日中韓などの自動車会社から提供された電気自動車による移動を奨励することを計画している。

ただ米中首脳会談が実現したり、日米韓などによる個別会談の開催も見込まれるなど、個別会談の話題にG20首脳会合自体が埋没し、報道での比重が下がることを議長国インドネシアとしては非常に懸念している。

バリ島のG20首脳会議が国際政治の単なる「場所貸し」になってしまうことをインドネシア政府は警戒しており、交通などの数々の制約にも関わらずG20開催期間中も含めて世界各地からの観光客の誘致に力を入れている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中