最新記事

食料危機

コロナ禍、ウクライナ侵攻、気候変動で急増するアフリカの飢餓人口。WFP・JICA専門家が考える、これからの食料安全保障

2022年10月4日(火)18時40分
※JICAトピックスより転載

アフリカの農業を、魅力あるビジネスに変える

――将来また起こりうる食料危機に備え、今後必要な支援の方向性について教えて下さい

津村さん:食料の安全保障を包括的にみる必要があります。生産、収穫、加工、流通、販売、消費をフードシステムとしてとらえ、そこに関わる官民すべてのアクターを巻き込み、支援に取り組むことが大切。食料の備蓄体制の整備も課題です。

西アフリカのなかでも特にガンビアでは、農業が儲からないという理由から、農村から都市部への若者の人口流出が続いています。もし、農業が儲かり、魅力があるビジネスであれば、やりたいという人は多いのです。フードシステムのなかで、単に食べるためではなく、ビジネスにつながるプロジェクトをつくっていきたい。従来の貧困支援にはもう限界があると感じています。民間セクターとの連携も実現させたいです。

天目石さん:国家から個人レベルまで、食料・農業セクターの強化が不可欠です。2003年にアフリカ連合(AU)は国家予算の10%を農業や農村開発に充てるよう宣言しました。しかし、その後、開発課題の多様化もあり、多くの国々で達成されていません。食料の確保は、人間が尊厳を持って生きていくために必要です。アフリカ各国と開発援助機関は今回の食料危機を教訓に、再度、農業セクターに目を向けるべきだと考えます。そして、小規模農家などに対する現場レベルの取り組みを強化していくことが必要です。

力のない国にしわ寄せがいく現実に、問題意識を持つ

――日本でも食料価格が上昇するなど、コロナ禍やウクライナ侵攻によって引き起こされた食料危機は、遠い国の話ではありません。現在、世界が直面する食料危機を誰もが自分事として認識する必要性について、どのようにお考えでしょうか?

天目石さん:世界全体の食料の生産量は増え続けるなか、なぜ一部の地域で食料危機が起こるのか。それは、力のある、ショックへの対応能力がある国は食料を確保できる一方で、力のないショックに弱い国にしわ寄せがいくからです。日本でも食品価格が上がりつつありますが、世界には食料へのアクセス自体が脅かされている国々、人々が増えています。食料危機に注目が集まっている今こそ、私たちはまずはこの現実に対する問題意識を持たなければいけません。

津村さん:コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻で、誰もが世界的な問題を身近に感じたのではないでしょうか。日本にいてもアフリカにいても、同じ問題に直面し、相互に依存している。そのことを、まずはしっかりと認識し、理解して、それぞれがアクションを起こす気持ちになってくれれば。SDGs目標2である「飢餓をゼロに」に向け、目標である2030年には間に合わないかもしれませんが、少しでもゴールに近づけていきたい。これからも西アフリカから、現場の声を発信していきます。

jicatopics20221004foodsecurity-9.jpg

※当記事は「JICAトピックス」からの転載記事です。
jicatopis_logo200.gif

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアのショイグ安保会議書記が訪朝、金総書記と会談

ワールド

ウクライナ首都に大規模な夜間攻撃、14人死亡・44

ワールド

タイ、貿易巡り米国に今週提案へ 関税交渉スタート

ビジネス

ヘッジファンド、アジア市場の取引が5年ぶり高水準=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中