最新記事

バイオテック

「小さなロボットが肺炎と闘う!」マウスの肺から肺炎を取り除くことに成功

2022年9月29日(木)16時15分
松岡由希子

緑の藻類細胞と茶色のポリマーを備えたマイクロボットが肺炎と闘う Credit: Fangyu Zhang and Zhengxing Li

<直接、肺にある病原微生物に抗生物質を送り込み、病原微生物を除去する医療用マイクロロボットを開発された......>

米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、肺へ移動して薬剤を運び、肺炎の原因となる病原微生物を除去する医療用マイクロロボットを開発した。その研究成果は2022年9月22日、学術雑誌「ネイチャーマテリアルズ」で発表されている。

藻類細胞でできたマイクロロボット

このマイクロロボットは、抗生物質が入ったナノ粒子で覆われた藻類細胞でできている。藻類細胞の運動によって移動し、直接、肺にある病原微生物に抗生物質を送り込む仕組みだ。

また、ナノ粒子は、白血球の一種「好中球」の細胞膜でコーティングされた生分解性ポリマーでできている。この細胞膜は細菌や体の免疫系が作り出す炎症性分子を吸収し、中和する。つまり、マイクロロボットを送り込むことによって、炎症を抑え、肺の感染症により効果的に対処できるのだ。

研究チームは、マイクロロボットを用いて緑膿菌性肺炎のマウスを治療する実験を行った。気管に挿入したチューブを通してマイクロロボットを肺に送り込んだところ、1週間後には感染症が完全に治癒した。この治療を受けたすべてのマウスは30日後も生存した一方、治療を受けなかったマウスは3日以内に死亡した。

静脈注射の3000分の1の抗生物質で

マイクロロボットによる治療は抗生物質を全身に拡散させるのではなく、標的となる領域にピンポイントで届けられるため、静脈注射よりも治療効果が高い。マイクロロボットがマウスに投与した抗生物質は500ナノグラムであったのに対し、静脈注射で同様の効果を得るために必要な投与量はその3000倍以上の1.644ミリグラムであった。

研究論文の共同著者でカリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・ニゼット教授は「マウスの実験データによれば、マイクロロボットが抗生物質の透過性を高めて病原微生物を死滅させ、より多くの患者の生命を救う可能性がある」と期待を寄せている。

治療を終えると、免疫細胞によって消える

マイクロロボットが体内で治療を終えると、藻類細胞と残存するナノ粒子は体内の免疫細胞によって効率的に消化される。有害なものは何も残らず、安全だという。

この研究は現在、概念実証(PoC)段階にある。研究チームは今後、「マイクロロボットが免疫系とどのように相互作用するのか」について基礎研究をすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中